仏像には色々な姿の仏さまがあって、ポーズも様々です。しかし仏像で表された仏さまたちは、ただポーズをとっているわけではありません。仏さまのポーズ、とくに手の形にはちゃんと意味があるのです。
それぞれの手の形を「印相(いんそう)」または「手印(しゅいん)」と呼びます。ここでは仏さまの代表的な印相を6つのトピックでご紹介します。これを知っておけば、仏像を見る目が変わります!
また印相を知ることで仏像を見分けることができて、少し友達に自慢気になることができるかも?!
今回は仏さまの手に注目してみましょう。
奈良の大仏さんもしているよ!:施無畏印と与願印
奈良・東大寺に行くと金堂(大仏殿)では巨大なご本尊・毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ・国宝)が見られます。毘盧遮那仏は東大寺華厳宗の重要な経典『華厳経』の中心となる仏さまです。
「毘盧遮那」とはサンスクリット語のヴァイローチャナの音写で「輝くもの」という意味があります。では、その手を見てみましょう。
右手は中指を軽く曲げて「やあ」とあいさつするように胸前に上げられています。これは「施無畏印(せむいいん)」という印相です。
左手は中指と薬指を軽く上げて、掌を上向きにする「与願印(よがんいん)」となっています。施無畏印は読んで字のごとく「畏(おそ)れることはない」という意味の印相です。与願印は願いを叶えるという意味があります。
この施無畏与願印を結ぶ毘盧遮那仏は東大寺以外に奈良・唐招提寺金堂(国宝)にも安置されています。ほかにも奈良・法隆寺金堂の釈迦三尊像のうち、釈迦如来坐像(国宝)や、京都・清凉寺の釈迦如来像(国宝)をはじめとする清凉寺式釈迦像などがこの印相を結びます。
福岡・戒壇院本堂本尊も毘盧遮那仏(重要文化財)ですが、こちらのお像は次に紹介する説法印(せっぽういん)という印相を結んでいます。
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仏教を教えましょう~:説法印(転法輪印)
両手を胸の前に上げ、親指と人差し指を合わ せて輪を作る仏さまがいます。このポーズはお釈迦さまがお弟子さんたちに説法なさるときの姿を表しているため「説法印(せっぽういん)」、もしくは「転法輪印(てんぽうりんいん)」と呼ばれます。釈迦如来や阿弥陀如来などに見られる印相です。「如来」とは仏教上最高の状態にあるものを指し、仏陀つまり、悟りを得たもののことをいいます。
造像例としては京都・広隆寺講堂本尊の阿弥陀如来坐像(国宝)、静岡・願成就院の阿弥陀如来坐像(国宝)、ほかに神奈川・極楽寺の釈迦如来坐像(重要文化財)、愛知・専長寺の阿弥陀如来坐像(重要文化財)などがあります。
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悪霊退散!?:降魔印(触地印)
お釈迦さまの姿を表す印相として先ほど説法印を紹介しましたが、ほかにもお釈迦さまの物語の中にある、降魔成道(ごうまじょうどう)というエピソードに由来する印相があります。
お釈迦さまが悟りを開こうとしているときに、その修行を邪魔をするためにマーラ(悪魔)の軍勢が様々な魔衆を使って誘惑し、妨害しようとします。もちろん、お釈迦さまは悪魔の誘惑を退けて勝利し、成道、すなわち悟りを開くことができます。
この降魔成道の際にお釈迦さまが悪魔を払ったポーズが、手を下ろして地面に指を触れさせる「降魔印(ごうまいん)」もしくは「触地印(そくちいん)」と呼ばれるものです。
日本での仏像の作例は少なく、著名なものとしては奈良・東大寺の弥勒仏坐像(試みの大仏・国宝)が挙げられます。
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密教宇宙の中心、大日如来の印相:智拳印と定印
施無畏与願印を結んでいた毘盧遮那仏は、密教においては大日如来という仏さまとなります。この大日如来さまは、密教においては宇宙の中心となる重要な仏さまです。
密教といえば歴史の授業で弘法大師・空海のことを習ったでしょう。空海が唐より請来したものの中に「両界(両部)曼荼羅(りょうかいまんだら)」という、密教の宇宙を描いた図があります。
この「両界(両部)」とは「金剛界」と「胎蔵」という宇宙のことです。どちらの宇宙の中心にも大日如来さまがいらっしゃいます。さて、この大日如来さま、宇宙の違いによって何が違うのでしょうか。
金剛界の大日さまは、その智徳の面を表しています。印相は、胸前で左手を握り人さし指を立て、それを右手で握る「智拳印(ちけんいん)」を結んでいます。
一方、胎蔵の大日さまは、その理徳の面を表しており、左手の指を伸ばして掌を上向け、その上に右手を同じようにして重ねて親指同士の先を合わす「法界定印(ほっかいじょういん)」を結んでいます。
法界定印の人さし指を曲げて親指と合わせて輪を作ると、阿弥陀さまの定印(じょういん)になります。例えば10円玉に刻まれた京都・宇治平等院鳳凰堂の本尊である阿弥陀如来坐像(国宝)は定印を結ぶ阿弥陀さまです。阿弥陀さまといえば、先ほど説法印を結ぶ例も紹介しました。阿弥陀さまもまた、その印相の違いによって意味が異なってくるのです。
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極楽浄土に行きたいって?OK!死者を迎えるOKポーズ阿弥陀如来の印相:来迎印
私たちは死んだらどこへ行くのでしょうか。悪いことをしたら地獄に堕ちるなんて言われませんでしたか。
我々の死後、お迎えに来てくださるのが西方極楽浄土(さいほうごくらくじょうど)に住まう阿弥陀如来さまです。
そして、このお迎えの阿弥陀さまが結んでいるのが「来迎印(らいごういん)」と呼ばれる印相です。来迎印は施無畏与願印に似ていますが、親指と人差し指を合わせて輪を作っているのが特徴です。
阿弥陀さまによるお迎えのスタイルは『観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)』に説く九品往生(くぼんおうじょう)の思想によると、9つのランクに分かれています。生前の行いによって上から上品上生、上品中生、上品下生、中品上生、中品中生、中品下生、下品上生、下品中生、下品下生となるのです。このランクも阿弥陀さまの印相で見分けることができます。ただし二通りの解釈があります。
上品もしくは上生 → 定印
中品もしくは中生 → 説法印
下品もしくは下生 → 来迎印
九品往生を表す仏像が京都・浄瑠璃寺の九体(くたい)阿弥陀如来坐像(国宝)です。九体の阿弥陀さまが並ぶさまは圧巻です。
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思惟する仏、弥勒菩薩の思惟手
最後に美仏として名高い弥勒菩薩(みろくぼさつ)の手を紹介したいと思います。京都・広隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像(宝冠弥勒)は半跏思惟(はんかしゆい)というポーズをとっています。
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半跏とは右足を下ろした左膝の上に乗せたポーズであり、思惟の様子は右手の人さし指と中指を頬に添えることで表されます。その美しさに誘われて、お像に近づいた大学生が、右手の薬指を折ってしまうという事件にもなっています。
弥勒菩薩の半跏思惟像はほかに、同じく広隆寺蔵の通称・泣き弥勒(国宝)、そして奈良・中宮寺の菩薩半跏像(国宝・寺伝では如意輪観音菩薩)があります。
ここで弥勒菩薩についてすこし、触れておきましょう。弥勒菩薩はお釈迦さまの次にブッダ(仏陀)になることが約束された仏さまです。兜率天という場所におられ、お釈迦さまの入滅後56億7千万年後に下生して衆生を救うといわれています。
これまでにご紹介した仏像は、お釈迦さまや阿弥陀さまをはじめとする「来」という仏さまでした。如来は「悟りを得たもの」の意味であると紹介しましたが、弥勒さまの「菩薩」とは「悟りを求めるもの」という意味があるのです。
つまり「菩薩」とは、如来に到達する前の段階であり、弥勒さまをはじめ観音菩薩、地蔵菩薩、普賢菩薩など「菩薩」と名前につく仏さまは、まだ修行中であるといえます。
ところで、この弥勒菩薩が如来となったお姿の仏像が奈良にあります。薬師寺・大講堂の弥勒三尊像のうち、弥勒如来坐像(重要文化財)、興福寺・北円堂の弥勒如来坐像(国宝)です。どちらも如来となり、思惟手ではなく施無畏与願印が結ばれています。
まとめ
今回は6つのトピックで、7つの印相
施無畏印、与願印、説法印(転法輪印)、降魔印(触地印)、智拳印、定印(法界定印)、来迎印
をご紹介しました。今後、お寺さんや博物館にお出かけした際に仏像を見かけたら、ぜひ印相チェックをしてみてくださいね。手の形によって、その仏像を造るときに籠められた「意味」がわかるはずです。
仏像にはまだまだ、今回紹介しきれなかった印相があります。また半跏思惟のように「半跏」という座り方であったり、身に着けているものや手に持っている物が違ったり、座っておられる台座、騎乗でも仏さまを見分けるポイントがあります。それぞれの仏さまがお経で説かれる「特徴」を捉えて仏像は造られているのです。
<書籍紹介>如来のことをもっと知りたくなった時には…
ここでは今回紹介した如来以外にもより深く仏像について学ぶことができる書籍・DVDをご紹介いたします。どれもわかりやすく書かれている初心者~中級者向けの本ですので、お気軽にお読みいただけるかと思います。
如来像のすべて (エイムック)
釈迦如来や薬師如来、弥勒如来など様々な「如来」にスポットを当て、如来をメインに取り上げた本。カラー写真も豊富で初心者の人でも読みやすいように解説してくれています。如来の仏像の入門書としてお勧め。
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仏像のひみつ 山本 勉 (著)
仏像の初心者のための本。小学生向けにかかれた本なので言葉がとってもわかりやすい解説がされています。仏像の入口には最適な一冊といえると思います。
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東海美仏散歩(ぴあ)
東海地方の仏像が詳細でかつわかりやすくまとまっている良書。東海地方限定にはなりますが秘仏スケジュールや仏像とは?などもまとまっているので初心者から少しステップアップされたい方におすすめしたい本です!
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