静岡伊豆の国・願成就院の仏像|運慶作の阿弥陀如来・不動明王・毘沙門天に会う(拝観料・時間つき)

運慶の名が、像の中から見つかった木札に書かれている。願成就院は、そういう寺です。
静岡県伊豆の国市。伊豆箱根鉄道の韮山駅か伊豆長岡駅から、歩いて約15分。寺の西側には、鎌倉幕府の初代執権・北条時政の館があったとされる跡が広がります。この地で源氏再興の旗揚げをした源頼朝が、奥州藤原氏との戦いの勝利を祈り、時政が1189年に建てたと伝わる寺です。
運慶作と確かめられている像は、全国でも多くはありません。その国宝5体が、1つのお堂(大御堂)にそろっています。阿弥陀如来坐像、不動明王と二童子、毘沙門天。「運慶ってどんな仏師?」を、実物で確かめに行ける寺です。
ひとつ先に言っておくと、私はこの寺の像に「いちばん」をつけません。同じ空間の像どうしが、響き合っているからです。この記事も、1体ずつ見たあと、最後にその「並び」へ戻ってきます。

願成就院・阿弥陀如来坐像:5体の真ん中に坐る像

お堂の中心に坐るのが、本尊の阿弥陀如来坐像です。胸の前に両手を上げ、指で輪をつくっています。顔を拡大すると、黒ずんだ木肌のところどころに、金が残っているのが見えます。目は伏せ気味。左右に立つ不動明王と毘沙門天が目を見開いているぶん、この静けさが際立ちます。
にらむ像と、静かに坐る像が、同じ堂にいる。この寺の見どころは、まずそこだと思っています。
仏像リンク編集部MEMO 📝


5体は、2013年に国宝に指定されました。本尊の阿弥陀如来坐像は、同じお堂の不動明王像・毘沙門天像とともに1186年、運慶が北条時政の依頼で造りました。阿弥陀さんの見分け方は、阿弥陀如来の解説にまとめています。
名称: 木造阿弥陀如来坐像(国宝)
時代: 鎌倉時代・1186年
像高: 142.0cm
材質: 木造
特徴: 胸の前に上げた両手と、指でつくる輪。黒ずんだ木肌に残る金。お堂の中心に坐る。
願成就院・不動明王と二童子:木札が見つかった像


運慶の名が書かれた木札は、この不動明王像と毘沙門天像から取り出されました。木札には、1186年に北条時政を施主として運慶が造ったことが書かれていたのです。
人から見える場所には名を書かず、像の内側に納めた。私には、名乗りを札に任せて、顔つきと体つきで語っている像に見えます。肉付きのよい胸と腹。右手の剣は長く、巻いた髪が肩へ落ちています。
仏像リンク編集部MEMO 📝




平安時代の中ごろ以降の不動明王像は、片目で天、片目で地をにらむ天地眼で表されることが多く、牙も片方が上、片方が下を向きます。この像は、そのどちらでもありません。まっすぐこちらを見ています。
両脇に立つ2人の童子は、矜羯羅(こんがら)童子と制吒迦(せいたか)童子。矜羯羅童子は清らかであどけなく、制吒迦童子は眉間にしわを寄せて、口をへの字に結んでいます。不動明王と並べると、大きさの差もよく分かります。不動明王については不動明王の解説へどうぞ。
名称: 木造不動明王及二童子立像(国宝)
時代: 鎌倉時代・1186年
像高: 不動明王137.2cm、矜羯羅童子74.4cm、制多迦童子83.5cm
材質: 木造(不動明王像は玉眼入り)
特徴: 両目とも正面を向く目と、下向きの2本の牙。肉付きのよい体つき。像の内側から見つかった木札。
願成就院・毘沙門天立像:2体の邪鬼を踏んで立つ武将

毘沙門天は戦の守り神として、武士に信仰されてきた尊格です。この像は、よろい姿で立ち、片方の手のひらに小さな塔をのせ、もう一方の手には長い柄の武器を持っています。目は玉眼。一点を見すえたまま、動きません。
この像からも、不動明王像と同じ内容の木札が見つかっています。


仏像リンク編集部MEMO 📝




毘沙門天さんがどんな神さまなのかは、こちらにまとめています。
名称: 木造毘沙門天立像(国宝)
時代: 鎌倉時代・1186年
像高: 148.2cm
材質: 木造(玉眼入り)
特徴: 2体の邪鬼を踏んで立つよろい姿。手のひらにのせた小さな塔。像の内側から見つかった木札。
その他の見どころ
本堂の阿弥陀如来坐像

茅葺きの本堂の本尊は、阿弥陀如来坐像(静岡県指定)です。慶派の仏師の作とみられます。本堂は、父・時政の供養のために、2代執権の北条義時が1215年に建てたと伝わるお堂です。本堂の特別拝観は、7日前までの予約が必要と寺の公式サイトにあります。
北條政子地蔵

宝物館には、地蔵菩薩坐像(静岡県指定)があります。像座に「寛喜」の銘文が残り、北条政子の七回忌のころ、北条泰時が奉納したと思われています。顔が政子に似せられているとも言われ、「政子地蔵」と呼ばれてきました。戦火をくぐり、一時は民間の手に渡ったあと、寺に戻された像です。慶派の仏師の作とみられます。
仏像リンク編集部MEMO 📝


御朱印と、堂内のこと

大御堂と宝物館の中は、撮影できません。5体の並びは、目で覚えて帰ることになります。火曜と水曜は休みなので、伊豆への週末旅行に組み込むのが合わせやすい寺です。
お寺の歴史と伝承

伊豆は、源頼朝が源氏再興の旗揚げをした土地です。願成就院は、頼朝が奥州藤原氏との戦いの勝利を祈り、北条時政が1189年に建てたと伝わります。ただ、運慶の像に入っていた木札には1186年と書かれています。寺が整う前から、時政は運慶に像を頼んでいたことになります。
鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』には、時政が建てた大御堂と南塔のほか、義時の南新御堂、泰時の北條御堂と北塔まで、堂塔の造営が北条氏の3代にわたって続いたことが記されています。大きな池を配した浄土様式の寺で、平泉の毛越寺、鎌倉の永福寺、京都の浄瑠璃寺と同じ時代の寺として知られます。
その伽藍は、15世紀末、北条早雲による堀越御所攻めの兵火で焼けました。それでも、運慶の5体は残りました。いまの寺の一帯は「願成就院跡」として国の史跡で、境内には北条時政と足利茶々丸の墓所があります。
主な歴史年表
1186年: 運慶が北条時政の依頼で、阿弥陀如来・不動明王と二童子・毘沙門天を造る(像内の木札による)
1189年: 時政が願成就院を建てたと伝わる
1215年: 北条義時が南新御堂を建てたと伝わる
15世紀末: 堀越御所攻めの兵火で伽藍が焼ける。運慶の5体は残る
1973年: 「願成就院跡」が国の史跡になる
2013年: 運慶の5体が国宝に指定される
なぜ、戦の願いの像が、阿弥陀さんの堂に並ぶのか
願成就院は、戦の勝利を祈って建てられた寺です。不動明王と毘沙門天がいるのは、すぐに分かります。分からないのは、本尊が阿弥陀さんなことです。


ここからは私の想像です。
この寺は、大きな池を配した浄土様式の寺でした。阿弥陀さんは、死んだあとの行き先を願う像です。一方、不動明王と毘沙門天は、いまの戦に勝つための像。つまり、この堂には「いまの願い」と「そのあとの願い」の両方が並んでいます。
武士は、勝つことと、失うことの両方を背負います。時政の子の義時は、父の供養のために南新御堂を建てました。戦の勝利を祈った寺に、戦のあとを受けとめる阿弥陀さんが坐る。それは、矛盾ではなく、武士の寺としてごく自然な並びだったのではないか。私はそう思っています。
まとめ:一番を選ばずに、並びで見る
運慶の名は、像の内側に納められた木札に書かれていました。外からは見えません。外から見えるのは、目を見開いて立つ2体と、静かに坐る1体の並びです。
戦に勝つための像と、戦のあとを受けとめる像が、同じ堂にいる。1体ずつ見ても確かに見応えがあります。でも、お堂の入口近くまで下がって、5体を一度に見てください。1体だけでは見えなかった顔が、並びの中で見えてきます。




では、運慶の像を5体見たあとで、運慶の姿を写したと伝わる像の前に立つと、どう見えるのでしょうか。その問いの続きは、次の寺で考えられます。
次に会いに行くなら
運慶の姿を写したと伝わる像に会うなら、六波羅蜜寺。「伝運慶坐像」があり、空也上人立像(康勝作)もある寺です。願成就院の5体を見たあとに、運慶本人の像と伝わる顔を見てください。
地方の運慶から、奈良へ戻るなら、興福寺。運慶の名とともに語られる像がある寺です。伊豆で見た像を、中央の寺で見直せます。
頼朝が戦った相手の寺へ行くなら、中尊寺。願成就院が勝利を祈った奥州藤原氏の寺です。戦を祈った側の寺から、戦った相手の寺へ。見方が変わるはずです。
同じコース「慶派の仏像をたどる」で、こんなところはどうでしょう
願成就院の拝観料金、時間、宗派、電話など
正式名称 | 天守君山 願成就院 |
宗派 | 高野山真言宗 |
住所・アクセス | 〒410-2122 静岡県伊豆の国市寺家83-1/伊豆箱根鉄道駿豆線 韮山駅・伊豆長岡駅から徒歩約15分(タクシー・シャトルバスは伊豆長岡駅)/車は国道136号沿い、山門前に無料駐車場(大型バス約3台・乗用車約20台) |
電話 | 055-949-7676 |
拝観時間・拝観方法 | 10:00〜16:00(最終受付15:30)。火曜・水曜は休み(正月三が日、火・水が祝日の場合は開館)。節分、8月15日、7月30日〜8月3日、12月24日〜31日も休み。大御堂・宝物館の中は撮影禁止。本堂の特別拝観・写経体験は7日前までに予約 |
拝観料金 | 大人800円、中高生400円、小学生200円(25名以上の団体は大人600円、中高生300円、小学生100円) |
拝観時間・料金は変わることがあります。お出かけ前にご確認ください。参考:願成就院公式サイト
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地域タグ:静岡県の仏像

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