【仏像の種類:千手観音とは】千本の手でひとびとを救うはウソ?!千手観音の腕の真実


仏像がしらない人でも知っているようなポピュラーな仏像のひとつにあげられるのは、今回ご紹介する千手観音かもしれません。漫画のキャラクターにも出てきますし、千手観音ダンスなんていうのもありますね。

▼千手観音ダンス

 

修学旅行で訪問した京都の三十三間堂の空間にびっくりしたことがある人も多いかもしれません。三十三間堂にずらっーっと並んでいるあの仏像が千手観音です。

 

 

千手観音は千の手を広げて、全ての人を救おうとするやる気を私たちにわかりやすく伝えてくださる観音さま。これだけ手があれば、どれかにすがれる・・・そんな頼りがいのある観音さまです。

 

千手観音の主な働き

 

千手観音の手が沢山あるのは、多くの迷える人々を救うために変身した観音様の一つのお姿であり、絶対に救いたいというその覚悟の現れです。その強烈なビジュアルは印象的ですよね。さて、その千手観音の千の手のひらに眼がついていることは知ってましたか? 千の手にある千の眼。困っている人をくまなく探そうとする眼です。だから、千手観音のまたの名は千手千眼観自在菩薩(せんじゅせんげんかんじざいぼさつ)。

 

しかも頭の上には十一面のお顔もあります。とすると思い出すのは、十一面観音ですね。千手観音もおなじ観音菩薩の仲間になるわけですが、実際この2種類の観音様に共通する特徴は沢山あります。

 

・頭上に11面を持っていること

・阿弥陀如来の化仏とハスの花を持っていること

・髪の毛は結ってまとめてある宝髻(ほうけい)という髪型であること

 

・まだ如来になる前の修行中の釈迦の王子時代を表現するきらびやかな服装とアクセサリーを身に付けていること

 

・十一面観音と同様の現世利益と後世利益の両方をかなえ救済できること

 

こんな特徴があげれます。

 

十一面観音や不空羂索観音の後に登場した千手観音は、十一面観音のセールスポイントをそっくり頂いて千本の腕と千個の目を足したパワーを持つ仏さまなんです。つまり最強の観音さまともいえます。

 

その証拠は仏さまたちの集合図で、思想を表現した胎蔵界曼荼羅という、いわば仏さまの番付表を見ればわかります。そこに描かれる観音の居場所・蓮華部(れんげぶ)では千手観音は蓮華王菩薩と呼ばれる最高の地位にあります。蓮華王、つまり観音グループの王様です。

 

十一面観音を大きく上回るパワーで災難に遭わない、寿命を延ばす、病気を治す、夫婦円満、恋愛成就など病苦・煩悩を含む全ての現世利益をかなえ救済できる王様なのです。

しかし驚愕の真実をお伝えします。。ほとんどの千手観音の腕の数はなんと40本です。千本じゃないんです…!「千手って言ったのに千手じゃないってどういうことだ!」と疑問に思う気持ちもわかります。でもおちついてください!実は、千手観音の1本の腕は25の世界と救うとされています。胸の前で合掌した手の2本と体の周囲に広がる40本の腕を合わせた、合計42本。1本の手で25の願い事を叶えるので、40×25=1,000となり、千本分のパワーはあるということです。

 

なぜ25なのかというと、二十五有(にじゅうごう)と呼ばれる衆生が流転する天上界から地獄まで25に分けられた世界があり、40本の腕がそれぞれを救う、という計算になるからです。42本で千(つまり無限を意味します)を助けることをそうやって表現しました。ただし仏像が作るひとが作りやすくするため、千本の手をつくってしまうと仏像の維持が大変になるから、きっとそういう現実的な理由もあったと思います。

 

千手観音の見た目の特徴、見分け方

千手観音の見分け方はなんといってもたくさんの手

もちろん千手観音の一番わかりやすい見分け方ポイントとなるのが、42本もしくは千本の腕です。像によってはそのそれぞれのてのひらに眼が描かれているのが確認できるものもあります。また、頭上に十一面、場合によってはそれ以上の数のお顔があります。そして、千手観音のもう一つの見どころは、沢山の手に持つ持物(じぶつ)とよばれる仏さまの持ち物です。

 

それぞれの手には蓮華や水瓶といった他の観音でおなじみのものから、仏様の教えと救済を象徴する鉄鉢や数珠などの法具、煩悩や迷いの心を退散させる武器など、ありとあらゆるものを持っています。その中には五穀豊穣を意味する葡萄、全ての鬼神を操るドクロ杖、難病を払いのける柳といった珍しい物をもっている場合もあり、人々のどんな願いも聞き届けられるために、千手観音はいろんな道具を用意しているわけです。まるでありとあらゆる救済アイテムが取りそろう人々を救うデパートといったところ。

 

 

これら全ての持物(じぶつ)についてはお経に記されており、その記述に従いながらいかに仏像として美しく表現するか、というのは仏像を作る仏師の腕のみせどころでもあります。

仏師も千手観音をつくりあげる時は他の仏像を作るよりも苦労したでしょう。クジャクのように広がった手と緻密につくられた持物の観音さまの身体との美しいバランスを仏師の努力に思いを馳せながら鑑賞するのも、仏像拝観の醍醐味といえますね。

意外なことに合掌ポーズは千手観音だけ

またみなさんがご飯を食べる前にいただきますをするポーズ、お寺に御参りしておさいせん箱でお願いをするポーズ、これを合掌(がっしょう)といい仏教を象徴するポーズですが、この合掌ポーズをする仏像は、仏さまの姿をしている仏像のなかでは少し意外かもしれませんが千手観音だけなんです。

千手観音の千手の手は、仏像の構造上こわれやすく、もろいため、古い仏像は後ろの千手がなくなってしまっているケースがよくあります。しかし手を前に合掌する仏像は千手観音だけなので、後ろの手がなくなっても見分けがつくわけです。

例えばこんな仏像も千手観音であると見分けがつくんです。

 

 

千手観音の成り立ち

千手観音はサンスクリット語でサハスラ・ブジャ(千の手)といいます。ヒンドゥー教の影響を色濃く受けている変化観音の代表的選手です。しかし、実はインドでは千手観音菩薩像は造られていないのです。千手観音は仏教が西域との交流ポイントだった中国の敦煌にやってきた時に発展した仏さまです。7世紀前半には中国で千手観音を説く教典が訳され、遣唐使と一緒に中国へ行った僧侶たちが日本へ千手観音の教えを持ち帰りました。

 

日本では千手観音信仰は白鳳時代から始まり、天平・平安時代に広く浸透し、隆盛を極めました。そして西国三十三所(さいごくさんじゅうさんしょ)観音霊場が定められるなど信仰の形が発展したのです。この霊場は近畿2府4県と岐阜県に点在する33か所の観音信仰の霊場の総称。その霊場のなかには本尊を千手観音としているところも多くあります。

 

「三十三」とは、観音経に説かれる、観世音菩薩が悩める人々を救うときに33の姿に変化するという考えに由来ています。

 

西国三十三所の観音菩薩を巡礼参拝すると、現世で犯したあらゆる罪業が消滅し、極楽往生できるとされています。日本で最も歴史がある巡礼行で、現在も多くの参拝者が千手観音の元を訪ね、その信仰の広がりとともに日本各地に千手観音などの観音菩薩の信仰が広がったとも考えられます。

 

ほんとうに1,000本の手をもつ真数千手

 

先ほどほとんどの千手観音は実際には42本の腕で千の腕を象徴すると説明しましたが、中には手の数が教典通り、本当に1,000本ある千手観音もあり、そういう千手観音のことを真数千手とよびます。

 

日本にある真数千手の像は「唐招提寺(とうしょうだいじ)像」(天平時代・国宝)と「葛井寺(ふじいでら)像」(天平時代・国宝)そして「壽宝寺(じゅほうじ)像」(平安時代・重文)の三体が三大名作とされ、最もよく知られています。

 

いずれの観音像も真数千手ならではの絶妙なバランスの造型とその繊細さが観る者をひきつけ、人気のある像となっています。

 

日本各地のおもな千手観音

京都・三十三間堂(さんじゅうさんげんどう)/千手観音

 

千手観音を千と一体安置している妙法院三十三間堂。修学旅行生や観光客に人気の場所ですね。正式には蓮華王院本堂といいますが、それは千手観音が蓮華部で一番エライ蓮華王菩薩と呼ばれることからきています。「三十三」という数字は観音菩薩が33の姿に変化するということに基づきます。柱間が33もある長く美しいお堂が特徴的で、国宝に指定されています。

 

三十三間堂の中央にいらっしゃるのが国宝の木造千手観音坐像。中尊(ちゅうそん)と呼ばれます。寄せ木造りで、十一面四十二臂(十一面の顔と42本の腕を持つ仏さま)。保存状態が良く、台座、光背、天蓋も当初のものが残っています。鎌倉期に大仏師の湛慶(たんけい)が弟子とともに完成させたものです。均整のとれた像全体で、温和な表情が観音さまの慈悲を表現しています。重要文化財の木造千手観音立像の1000体は、いずれも頭上に十一面を持ち、両脇に40の腕をもつ形の観音さまたちです。中心にレイアウトされている中尊とその左右で10列の階段状に並ぶ観音立像が作り出すその場は異空間のようで、作り出される静かなエネルギーに圧倒されます。

 

こちらの記事で三十三間堂の千手観音やその他の仏像もさらにくわしく解説しています。

三十三間堂は千手観音だけでなく二十八部衆も見事な造形です。これを読んでぜひ京都に立ち寄った際には訪問してみましょう。

 

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大阪・葛井寺(ふじいでら)/真数千手観音

さきほど真数千手のところでご紹介した葛井寺は西国三十三所第5番札所のお寺です。本尊は国宝の千手観音菩薩坐像です。725年に聖武天皇の勅願によって作られ、行基が開眼しました。頭上に十一面、正面で手を合わせる合掌手、宝鉢や宝輪、数珠などをもつ40本の大手にくじゃくのように開く1001本の小手、合わせて1043本の手を持つ真数千手の観音さまです。その上、手のひらに残存する墨で眼が描かれていたことが確認でき、まさに千手千眼。

 

落ち着いたたたずまいの像は奈良時代に流行した脱活乾漆造(だっかつかんしつづくり)という細部を表現するのに優れた技法で造られています。天平時代の円熟した技巧が写実的な造像にうまく取り入れられ、豊満な像全体にバランスの良い理知的なお顔がマッチした仏像です。実は合掌する手以外の大小の脇手は、像の背後にある2本の支柱に固定したもの。本体とは離れていますが、正面から見ると像本体から手が1000本生えているように見えます。秘仏なので通常は拝観できませんが、毎月18日に納められている厨子が開かれ、その美しいお姿に対面することができます。

 

全国にはこちらの千手観音だけでなく、たくさんの秘仏が存在します。なかには何十年に1度の秘仏も。抜け漏れがないよう、秘仏の御開帳スケジュールをしっかりチェックしましょう。

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京都・清水寺/千手観音(清水寺式千手観音)

西国三十三所観音霊場の第16番札所の清水寺。「清水の舞台」で有名な世界中から訪れる観光客で賑わうお寺ですね。本尊は33年に一度公開される秘仏の千手観音立像です。しかし秘仏の千手観音は33年に1度しかお会いすることができないため、本尊にかわって人々がお願いできる仏像をまつることがあります。これを「お前立ち」といいます。

 

清水寺のお前立ちの像は42本の腕を持ち、十一面のお顔で迷える人々を救おうとする慈悲に溢れた仏さま。実像は額の真ん中にある仏さま独特の白毫(びゃくごう/眉間に生えた白い巻き毛)部分には水晶がはめられ、漆や彩色をほどこさない素地仕上げの像だということです。

 

そしてこの「清水の観音さん」として親しまれる本尊のもっとも大きな特徴は、42本の手のうち一対の腕を頭上に伸ばして釈迦如来を捧げ持つ、という特殊な形の像だというところです。

 

このようなスタイルの観音さまを清水寺式千手観音と呼び、これを模した観音像が日本各地にあります。次回の清水寺秘仏本尊公開は2033年とのこと。気を長くして待つしかありませんね。

以上、菩薩のなかま千手観音の特徴と千本の手でひとびとを救うはウソ?!知らなきゃよかった?千手観音の真実の紹介でした。

 

 
 
 
 
 
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