【仏像の種類:十一面観音とは】仏像界のマルチビタミン!中性的な魅力を放つセクシーな観音さま


十一面観音といえば、やっぱり気になるのはその頭についたお顔。頭の上に沢山の顔があって、いろんな表情をしているみたい。

 

後ろにもきちんと顔はついているのかな、後ろの顔はどんな表情しているの?

一体何のために沢山の顔をつけているの?

 

そんなギモンの答えを探しながら、十一面観音とは?について知っていきましょう!

十一面観音はどんな仏さま?

 

十一面観音は「十一面観音菩薩(じゅういちめんかんのんぼさつ)」、「十一面観世音菩薩(じゅういちめんかんぜおんぼさつ)」とも呼ばれていますが、まったく同じなのでどちらでもOKです。

 

「観音(人々の声を広く聞き、見る)菩薩(修行中の仏さま)」の一種。

 

菩薩の中でも「観音菩薩」は求められればどんな姿にも変わって人々を救うという象徴的な意味を込めて33の姿に変身できると言われている仏さまで、勢至(せいし)菩薩と共に阿弥陀如来のそばで脇侍(わきじ)を務め、阿弥陀三尊像をつくります。

 

お釈迦さまが悟りをひらくまえの王子さま時代をモデルにした菩薩の姿ですからまだ修行中ですし、悟りの境地に至った如来よりも人間に近く、親しみやすい存在です。

 

菩薩の特技は変身です!変身をして人びとの悩みを解決してくれるのです。

 

十一面観音もそんな観音菩薩が変身する姿のひとつ。

 

十一面観音菩薩は正面の顔の他に頭の上に10もしくは11の顔をもっています。この顔で世の中の困っている人のことを絶対見逃さない、そんなやる気満々な観音さまなんです。

 

十一面観音 見た目の特徴・見分け方

 

十一面観音の特徴といえば、やはり頭についたたくさんの顔。十一面観音菩薩は顔の上に10もしくは11の面があります。これは360度のあらゆる方角を常に見て、衆生のどんな苦難も見逃さないという意味です。

 

 

とてもやる気があって現世利益をはっきり表現している観音さま。

 

菩薩としての特徴を見ると、如来のパンチパーマのような螺髪(らはつ)ではなく、宝髻(ほうけい)という髪をゆってまとめる髪型。服装はきらびやかで、ネックレスやイヤリングなどの装飾品を付けています。

 

菩薩はまだ悟りに至っておらず、煩悩から抜け出せていないから服装が派手だという説もありますが、そもそも菩薩というのは修行前か修行中の王子の姿の釈迦を表わしているわけなので、そういう服装になるのです。

 

また、観音菩薩としての特徴は頭に阿弥陀如来の化仏が装飾されていること。これは、阿弥陀如来が自分の身分を隠して観音菩薩になったとされているからです。

 

悟りの境地にある「偉い」如来より、まだ悟りには至らない姿の菩薩姿の方が人間に近い存在で、親しみやすいだろうと、姿を変えてより近くで救済してくれる仏さまが観音菩薩というわけです。また、蓮の花や水瓶を持っていることも観音さまとしての特徴です。

 

十一面観音菩薩のご利益

仏さまのご利益には、生きてる間にもらえる現世利益と死んでからの後世利益という二種類があります。十一面観音菩薩のご利益は十種勝利と四種果報。

 

10種類の現世利益(病気から守る、不慮の事故から守られ螺宇、財産や食事の心配がないなど)と4種類の後世利益(臨終には如来に会える、地獄に生まれ変わらない、早死にしない、極楽浄土に生まれ変わる)の計14種類のメニューをカバーした幅広いご利益です!

サプリメントでいえばマルチビタミンってところでしょうか?!

 

こんなに何でも聞いてくださる庶民的な観音菩薩さま、人気がないわけがありません。

十一面観音 頭の化仏の意味

十一面観音の全方向を見守るという十一の顔は、ただ苦しむ人を発見するためだけにあるのではありません。それぞれの顔は人々をなだめたり、怒ったり励ましてくれたりするのです。まず、十一面観音の頭上の正面には阿弥陀如来のミニチュアのような化仏(けぶつ)があります。

 

これはこの観音が阿弥陀如来の化身だということを示しています。そして普通十一面観音の頭の上の顔には五種類の表情があります。

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頭頂に仏頂面(ぶっちょうめん)1面、

頭上の正面側に菩薩面が3面、

仏像の左の頭部に瞋怒面(しんぬめん)が3面、

右の頭部に狗牙上出面(くげじょうしゅつめん)3面、

そして拝観者からは見えない後頭部に暴悪大笑面(ぼうばくだいしょうめん)1面

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で、1+3+3+3+1=11 という具合

 

仏頂面は仏頂面(ぶっちょうづら)してるわけじゃないですよ。

究極的理想としての悟りの表情で無表情のように見えるのです。菩薩面は穏やかな慈悲の表情を見せ、瞋怒面は眉をつり上げ、口を「へ」の字にして邪悪な衆生(迷える人)を戒めて仏道へと向かわせる怒りの表情。狗牙上出面は牙をチラリと見せて、おこないの良い衆生を励まして仏道を勧めます。

そしてお楽しみは、信じられないような表情の暴悪大笑面。

 

悪への怒りが極まるあまり、「悪いことはみんなお見通しだ、ばかばかしい! わっはっは」と人の悪行について大口をあけ歯を見せ、笑い飛ばす表情は強烈なインパクト。仏さまにも歯はあったんですね・・・。本来の観音さまのイメージ作りを考えると、見えにくい背面に配置されるのもまあ・・・納得です。

 

十一面観音の成り立ち

十一面観音はサンスクリット語で、「エーカーダシャムクハ」。「十一面」という意味です。

十一面の数の由来などははっきりしていませんが、インドにおけるヒンドゥー教の複数の顔と腕を持つ神の影響を受けて7世紀ころに成立し、バラモン教にも十一面の神が存在することから、それとの関係もあると考えられています。

中国では7世紀に十一面観音が流行し、敦煌の壁画にも登場します。これらの影響を受けながら日本に上陸した十一面観音。奈良時代には病気や天災に苦しむ日本の人々の心をガッチリ捕らえ、現世利益を求める人々の間で十一面観音像の人気は急上昇。

実際、観音菩薩の中では聖観音に次いで作られた像が多く、千手観音と並んで観世音菩薩の変化身の中では御利益がストレートに表現されたその容姿もあって十一面観音はなかなかの人気者、となったわけです。

滋賀県に多い十一面観音

さて、この十一面観音がとても多い県があります。重要文化財に指定された十一面観音の数は京都でも奈良でもなく、なんと滋賀県がトップ。全国で六体だけの国宝の十一面観音菩薩のうち最も美しいとされる一体は滋賀県長浜市にある湖北・渡岸寺(どうがんじ)にあります。どうしてなんでしょう?

 

その答えの鍵は滋賀県長浜市にある比叡山よりも古い歴史を持つ山岳信仰の聖地・己高山(こだかみやま)です。

 

 

都の鬼門(北東方向)にあたる己高山は山岳信仰の拠点で交通の要地。そのため、鎮護国家の中央仏教、北陸白山信仰、天台密教がここで己高山信仰と混ざり合いました。高僧・行基や天台宗開祖の最澄は多くの十一面観音を作っています。

 

 

神と仏への信仰を折衷した神仏習合の考えをもとに、山の神のオリジナルは十一面観音と考えられ、湖北でとても大切にされたのです。

 

琵琶湖周辺には延暦寺、三井寺、石山寺など大きな寺院が沢山ありますが、湖北でも負けずに十一面観音の信仰をベースにした独自の一大仏教文化圏が作られてきました。しかし、戦国時代の比叡山焼き打ちや重なる戦乱に巻き込まれ、明治の廃仏毀釈という仏教弾圧によって寺はなくなってしまいました。

 

それでも篤い信仰心を持つ村人たちが命がけで隠し守った十一面観音たちは、今でも湖北地域のお堂や収蔵庫で大切に保存されています。「観音の里」として再び知られるようになった地域の観音さまたちの中には損傷の激しいものも残っていますが、昔の美しい姿のままの観音さまたちとともに悲しい歴史を物語る文化遺産となっています。

観音の里、滋賀県長浜市で活躍する観音ガール「まめかなさん」のインタビューです。湖北の仏像にふれあうお話がたくさん聞けました。

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十一面観音は中性的、とっても美しい雰囲気の仏像が多い!

優しい表情、くびれた腰、その立ち姿などを観ていると、十一面観音ってなんだかとっても女性的。性別はないと言われながらも、阿弥陀如来の脇侍として対になって立つ勢至菩薩や僧侶の姿をした地蔵菩薩と比べると、どう見ても女性っぽい

どうやらこれは中国の観音信仰が東シナ海域や黄海にまで広がったときに、航海安全を記念する民族信仰などの女神と結びついたことが関係すると言われています。母親のような慈悲を象徴し、また「観音経」では女性の姿に変身して人々を救済すると書かれてあることから、女性的なイメージでのアプローチになった可能性も。でも、モデルとなっているのは男性である釈尊ですし、観音さまにおヒゲが描かれていることだってあります。ちょっと混乱しがちですが基本としては、性別を超越した中性的な存在なんです。

十一面観音 日本のおもな作例

奈良県・長谷寺/十一面観音【重要文化財】(室町時代、長谷寺式十一面観音)

全国に長谷寺という名前のお寺はたくさんありますがこの長谷寺信仰の中心となるこの寺のご本尊は本堂に安置されている重要文化財の十一面観世音菩薩立像。まず、驚くのはそのサイズ。1538年に作られた菩薩立像は身丈およそ10m!!、木造の十一面観音像としては日本最大です。威厳たっぷりな観音さまの右手に注目しましょう。念珠と一緒に錫杖(しゃくじょう)を持っています。これは通常地蔵菩薩が持っているもので、この観音さまが本来の役割に加え、自ら人間界に降りて苦しむ人を救済するというお地蔵さまの徳を併せ持つことを表わしています。これが「長谷寺式十一面観音」と呼ばれる観音さまの特徴です。

 

そして観音さまはハスの台座にではなく、大きな四角い岩の上に立っています。この岩が観音の浄土である補陀落山(ふだらくさん)と繋がっているのだと言われています。

滋賀県・渡岸寺(どうがんじ)観音堂/十一面観音【国宝】(平安時代・湖北の代表的な十一面観音)

 

向源寺というお寺が滋賀県の湖北にあたる長浜市高月町にあります。その中の渡岸寺観音堂に祀られているのが、日本一美しいと言われる国宝十一面観音菩薩像です。檜の一木造りの立像は「渡岸寺の十一面観音さま」と呼ばれ、繊細な彫刻が極上の美を表現しています。平安時代前期に鎮護国家のために聖武天皇の勅願で制作された観音さまです。

戦国時代に姉川の戦いで戦火のために焼失してしまった渡岸寺ですが、観音様だけは住職と門徒たちの手によって土に埋めて守られたそうです。

 

こちらの観音さまはすぐ間近で拝観できます。十一面観音の面は頭上だけでなく、頭の側面にもある通常とは違った配置です。腰を左に捻ったそのカーブの美しさは絶品。そして嬉しいことに、後ろに回って観音さまの背後を観ることもできるのです。めったに見る機会のない観音の後頭部にあるあの「暴悪大笑面」の何ともいえない不気味な大笑いの顔を見ることができますよ。

 

漫画GANTZに登場する仏像はこの十一面観音がモデルになっています。

奈良・聖林寺/十一面観音【国宝】(天平時代)

 

奈良の桜井市にある聖林寺は国宝の十一面観音立像をお祀りします。

 

実は十一面観音はかつて三輪山の大神(おおみわ)神社に付属した神宮寺の大御輪寺(おおみわでら)の本尊でした。明治になって神仏分離・廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)という仏像破壊などの運動が大きくなる前にこの寺に避難できた幸運な観音さま。

 

本来秘仏だったのに、避難させられたときには観音さまもびっくりされたでしょう。以降、聖林寺でも秘仏として受け継いだのですが、1886年に美術研究家の岡倉天心フェノロサが調査に訪れたことをきっかけに公の目にふれることになります。

 

奈良時代天平様式の木心乾漆像は、腰の部分が細くなっていながらも量感にあふれ、天衣や手指の表情が非常に繊細です。そして切れ長の正面を見つめる強い視線の目が印象的。

 

実はこの十一面観音には、別の寺へ引き取られた同窓生もいます。観音さまが大御輪寺の秘仏だった頃、脇に一緒に安置されていた地蔵菩薩像は法隆寺宝蔵院に、その秘仏の観音に代ってその前に安置されるお前立ち像だった十一面観音像は近年再興された桜井市平等寺の秘仏本尊に、そしてやはり同じ寺の不動明王像も桜井市の玄賓庵の本尊としてそれぞれの居場所で人々を導いています。幸運だったのは苦難を乗り越え無事だった仏さまだけではなく、その仏さまに出会えた拝観者の人たちも同じなのかもしれません。

 

 

【書籍紹介】菩薩のことをもっと知りたくなった時には…

ここでは今回紹介した菩薩以外にもより深く仏像について学ぶことができる書籍・DVDをご紹介いたします。どれもわかりやすく書かれている初心者~中級者向けの本ですので、お気軽にお読みいただけるかと思います。

仏像大図鑑 如来・菩薩像のすべて

菩薩像の種類や特徴、もっているものなど、菩薩像とは…をギュッと1冊に凝縮した菩薩のすべてが理解できる教科書。 カラー写真やこの本のために撮りおろしされた写真も多いので、菩薩像のあらたな魅力を発見できるかも?!

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菩薩像のすべて

とにかく写真が豊富、紹介している仏像が豊富という本。日本各地にある代表的な菩薩像を掲載しています。

如来像のすべてや、明王像のすべて、天の仏像のすべてなど仏像界の各ランクごとに専門的に切り込んでいる「◯◯のすべて」シリーズの菩薩像バージョン。これはぜひ全シリーズそろえたいですね。

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十一面観音巡礼(白洲 正子)

鋭い眼力と個性的な感性で日本の美としての仏像の魅力を発見しては文章で表現していった昭和の随筆家・白洲正子さん。

彼女が自ら歩んで出会った十一面観音めぐりのエッセイ。白洲正子さんの美しい文章で、じんわりと日本の土地に根付いた十一面観音像が紹介されています。

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京都仏像めぐり (たびカル)

女性向けの可愛らしい本ですが、京都の旅で見るべき仏像が凝縮されていてとてもわかりやすい内容になっています。旅の邪魔にならない本のサイズも素晴らしいところ。

掲載されている情報も小さなわりにはたくさんつまっています。こちらの本をもって京都の仏像の旅をしてみてはいかがでしょうか。

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