【仏像の種類:地蔵菩薩とは】裏表が激しいお地蔵さまは現世をまもるナウい仏像だった!


道の傍らにたっているお地蔵さまは、とっても素朴で優しげ。かわいい、なんて思ってしまうこともあったりして。民話などに登場する「お地蔵さま」のおかげで、地蔵菩薩は子供も知っている菩薩さまナンバー1であることは間違いないでしょう。いつもおだやかな表情で路傍に佇むそんなお地蔵さまの素顔に迫ってみましょう。

 

地蔵菩薩の主な働き

釈迦が亡くなってから、後継者の弥勒菩薩が如来となって現世に現れるまで、56億7000万年という気の遠くなるような年月がかかると言われています。平安時代に浄土信仰が普及してくると、人々の極楽浄土への憧れは強まり、それと同時に地獄を畏れるようになりました。「釈迦も弥勒もいない今の私たち、どうなっちゃうの?」 と不安になった人々の前に、「大丈夫。私が救ってあげましょう」と登場したのがお地蔵さまです。

 

 

釈迦もおらず、弥勒もいないこの世の中で、絶対全員を救うのだという固い決意で現れたえらい仏さま。

お地蔵様の正式な名前は「地蔵菩薩」。菩薩といえば仏像世界のランクの中で「如来」の次に偉い仏様でNo2に位置する仏さま。お地蔵様といえば優しいイメージであまり偉くなさそうなイメージがあるかもしれませんが、意外と?!偉い仏様なんですよ。

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地蔵菩薩は極楽往生出来ず、輪廻の輪の中の六道という六つの世界でさまよい続ける人まで救済するためには、地獄などの六道世界にさえも一つ一つ足を運ぶことをいとわない菩薩さまなんです。お地蔵様はよく6人セットで登場します。そしてそれは「六地蔵」と呼ばれます。これは六道の6つの世界それぞれにお地蔵様が現れることから「六地蔵」と呼ばれているんですね。

六道の中でも最悪の場所はもちろん地獄です。罪ある人を地獄に堕とそうとする裁判長の閻魔さま。それに待ったをかけて救いの手を差し伸べるのが地蔵菩薩で、いわば、地獄裁判の弁護士というところ。この点も地蔵菩薩の人気の理由です。

 

ところが驚くなかれ、この裁判長の閻魔さまは、地蔵菩薩の変身したお姿。ちょっとわけがわかりませんね? 穏やかな外見の地蔵菩薩が実はコワモテの閻魔さまだとは信じがたいし、裁判長と弁護士の両方が地蔵菩薩ってどういうことなの?

 

疑問はごもっとも。でも、考えてみてください。世界の隅々まで歩き回って人々の行いをつぶさに見ている地蔵菩薩だからこそ、閻魔として裁判でフェアな判断ができるわけです。そして、裁判長と弁護士が同一なら、もしかして一生懸命、地蔵菩薩を信じれば、成仏も何とかなるかも・・・。人々は地獄の一歩手前での無罪判決に期待して地蔵菩薩にすがろうとするのです。

地蔵菩薩はかなりの激務をこなす仏さまです。親より先に死んだ子供は親を悲しませ、親孝行もしないままなので成仏できません。

賽の河原で永遠に石を積む苦役に晒されている子供たちの元へも地蔵菩薩は率先して足を運び、鬼から子供を守り、話しをして功徳をあたえ、子供たちを成仏させてやります。

「子安地蔵」として妊婦の安産を守護してやり、「身代わり地蔵」として災難に遭った人の苦しみを引き受けてやり、「道祖神」として集落や道を守るなど、色々な顔のお地蔵さんとして人々の生活を支えてくださる存在なのです。

 

 

地蔵菩薩の成り立ち

クシティガルバ、大地を包蔵(ほうぞう)するという意味のサンスクリット語の名前が地蔵と訳されました。地蔵菩薩とは大地のように強い心で人々に成り代わってどんな苦悩を受けても揺らぐことはない、という頼もしい名前なんです。実は、奈良時代にはすでに日本に伝来していましたが、現世利益優先の時代には地蔵の考え方はまだ普及しませんでした。浄土信仰も同時期に始まっていましたが、その頃はまだ死者の死後を祈るための教えだったのです。そして平安時代になり、この世では仏の教えが廃れてしまうという末法思想の時代になった時、浄土信仰は個人が極楽浄土へ往生するための信仰としてクローズアップされました。

 

お金や教養のある貴族たちはこぞって写経し、金に糸目を付けずお寺や仏像をがんがん作って自分たちの極楽往生チケットを確実に入手しようとします。でも、庶民にはそんなことはできません。

 

これじゃあ、自分たちは地獄に墜ちる・・・と心配しているところで地蔵菩薩に出会うのです。「全ての者を救済する」地蔵菩薩は貴族のように極楽往生するための手段を持たない庶民たちの味方となったわけです。

 

弱者を助ける菩薩として子供たちの仏さまとしても頼られる存在になり、子供や水子供養の地蔵信仰を集めるようになりました。地蔵菩薩はお地蔵さんとして路傍で子供たちを、道祖神として旅人を見守る存在として人々と共存し始めます。地蔵菩薩が観音と違ってお寺の秘仏にされることがあまりないのは、人々との間に垣根を作らない庶民の仏になっていったからなんです。

 

地蔵盆とは

さて、地蔵盆というのを知ってますか?

地蔵盆とは、京都発祥の関西でよく見られる地蔵の縁日の行事で、子供の夏祭りのようなもの。お盆の終わり8月23日、24日に行われる子供の幸せを願う地蔵菩薩の行事ということで地蔵盆と呼ばれるそうです。なぜか関西で有名で、関東ではあまりさかんではありません。

 

町内の地蔵尊の近くに屋台が並び、お菓子を食べたり、ゲームや福引きをしたり、盆踊りを踊ったりと子供が喜ぶ楽しい夏の風物詩。私たちを見守ってくださっているお地蔵さまを一層身近に感じる時です。こうやって奈良時代にやって来た地蔵菩薩は大人だけでなく子供にも親しまれる存在になり現在に続いています。
この地蔵盆の日だけに御開帳される秘仏も多くあったりしますので地蔵さまファンの方はこの日のご開帳情報は要チェックです!

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地蔵菩薩の特徴、見分け方

地蔵菩薩は剃髪していて、袈裟を身に付けお坊さんそっくり。すぐに他の菩薩とは区別がつきますね。

その他の特徴としては、ネックレスをつけていることはありますが、アクセサリーらしきものは多く身に付けていません。

さらに左手に如意宝珠とよばれる、桃のように頂点がちょっと尖っていて願い事が叶うという玉を持っています。右手には旅に出るお坊さんが持つような錫杖(しゃくじょう)を持つか、手のひらを正面に向けて下へ垂らす形の与願印(よがんいん)をとる場合もあります。

お坊さんと違うのは白毫(びゃくごう)と呼ばれる右回りに生えている白い産毛が眉間の少し上の部分にあることくらいです。

 

 

そして、お地蔵さまについて言えば、わりと目につくのが路傍のお地蔵さまの赤いよだれかけや帽子。それは、赤という色に「清く正しい」という意味があって、魔除けの意味があるのです。子供をまもってくださるお地蔵さまに子供が元気に育つようにと、誰かが奉納しているものなんですよ。

 

お地蔵様といえば皆親しみのある優しい姿をしていると思いがちですか、

中にはこんなにイケメンのお地蔵様もいたりするんです!

★イケメン地蔵ベストテン★

地蔵菩薩の主な例

奈良・法隆寺 地蔵菩薩立像【国宝】(平安時代初期)[数奇な運命の地蔵菩薩]

木造地蔵菩薩立像は国宝です。像高173センチ、カヤ材の一本造り。本体から台座蓮肉部までを一木で仕上げています。9世紀ごろ、平安時代の作と見られています。

錫杖を持たない形で、右手は下げて掌を前に向ける与願印を示し、左手には蓮茎(れんけい)つまりレンコンを持っています。厚みのある身体の上を大波と小波を交互に彫る翻波式(ほんぱしき)のひだが像の量感や丸みを美しく表現している地蔵菩薩。

この像はもと大神神社(おおみわじんじゃ)の神宮寺の大御輪寺(だいごりんじ)にあったもので、大御輪寺の本尊だった十一面観音が聖林寺へ移されたのと同様に、明治初年の神仏分離の際に法隆寺に移されました。これら二体の仏像は、同じお寺から共に廃仏毀釈の嵐を逃れて生き延びてきた仲間というわけです。よくぞ無事に残ってくれた、と思わずにいられないお地蔵様です。

聖林寺の十一面観音についてはこちらの記事をご覧ください


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奈良・安産寺/地蔵菩薩立像【重文】[室生寺からやってきたお地蔵さま]

安産寺は、奈良県宇陀市室生区中村の自治会で守っておられる無住のお寺。「子安地蔵」と親しまれる地蔵菩薩立像は、重要文化財で本尊でもあります。像高177.5cmカヤ材の一本造り。平安初期の作と言われ、沓(くつ)を履く珍しい地蔵菩薩です。左手には宝珠、右手は与願印を示しています。また、袈裟を着ていないのでちょっと如来っぽく、耳たぶもとても長い印象です。

 

さらに注目すべきは、この像と室生寺との関係です。この像は、安産寺の寺伝では室生川を流れ下ってきた、ということですが、もともとは室生寺金堂に安置されていた薬師如来(伝釈迦如来)像の脇侍でした。今でも室生寺にはこの地蔵菩薩のものらしき光背が残されています。

像の衣の紋様は「連波式」と呼ばれる大波の間に小波が二本入るという室生寺独自の衣紋。これがこの像がもともと室生寺のものであったという証しです。1993年に開かれた東京国立博物館の特別展では室生寺に残された光背と安産寺の地蔵菩薩が合わさって展示され、光背の高さや造りが像にぴったりと合致し、関係者を感嘆させました。ただ、色々な事情で普段は別々の展示になってしまうのが残念ですが。

三重県・朝田寺(ちょうでんじ)/地蔵菩薩立像【重文】[独特の風習ののこるお寺]

三重県松坂市朝田町(あさだちょう)にある朝田寺の本尊は木造地蔵菩薩立像。平安前期の作とされる国の重要文化財です。左手に如意宝珠を持ち、右手は与願印をとったどこか生真面目な印象のお地蔵さまです。実は、「朝田の地蔵さん」と親しまれているこの朝田寺、300年以上も続く珍しい風習が残るお寺なんです。

人が死んで35日目、閻魔さまに地獄に落ちるかどうかの裁判をされる時、お地蔵さまは故人の弁護をして極楽浄土に行けるよう尽くしてくださいます。そのお地蔵さまに「どうか故人が極楽往生できますよう、よろしくお願いします!」とお参りすることを「道明供養(みちあけくよう)」といいます。朝田寺のお地蔵さまは宗教宗派を問わずこの供養を引き受けてくださる寛大な仏さま。

遺族は供養のために故人の使っていた衣服を一着お寺に持ってきて、お祈りしたあと本堂の天井に掛けます。これは全国でもこのお寺だけに残った風習です。

 

 

お寺の本堂の天井には、8月に初盆を迎える故人たちの衣類が沢山掛かっています。それは「生身の人間として生きた故人の供養なんだ」、ということが目の前に晒し出されるような光景。遺族たちは衣類を通して故人の霊を慰めるため、8月16日から23日にかけて初盆のお参りに訪れます。最終日23日には故人の衣類を焼き、最後の供養をしてこの「道明供養」は終了するのです。

 

初めて見た時は、少しぎょっとする光景でありますがそういった風習は日本全国で大事にされてきたもので、我々の心のどこかに今も残っている日本人の心のカケラのような気がしています。

【書籍紹介】菩薩のことをもっと知りたくなった時には…

ここでは今回紹介した菩薩以外にもより深く仏像について学ぶことができる書籍・DVDをご紹介いたします。どれもわかりやすく書かれている初心者~中級者向けの本ですので、お気軽にお読みいただけるかと思います。

仏像大図鑑 如来・菩薩像のすべて

菩薩像の種類や特徴、もっているものなど、菩薩像とは…をギュッと1冊に凝縮した菩薩のすべてが理解できる教科書。 カラー写真やこの本のために撮りおろしされた写真も多いので、菩薩像のあらたな魅力を発見できるかも?!

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菩薩像のすべて

とにかく写真が豊富、紹介している仏像が豊富という本。日本各地にある代表的な菩薩像を掲載しています。

如来像のすべてや、明王像のすべて、天の仏像のすべてなど仏像界の各ランクごとに専門的に切り込んでいる「◯◯のすべて」シリーズの菩薩像バージョン。これはぜひ全シリーズそろえたいですね。

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十一面観音巡礼(白洲 正子)

鋭い眼力と個性的な感性で日本の美としての仏像の魅力を発見しては文章で表現していった昭和の随筆家・白洲正子さん。

彼女が自ら歩んで出会った十一面観音めぐりのエッセイ。白洲正子さんの美しい文章で、じんわりと日本の土地に根付いた十一面観音像が紹介されています。

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京都仏像めぐり (たびカル)

女性向けの可愛らしい本ですが、京都の旅で見るべき仏像が凝縮されていてとてもわかりやすい内容になっています。旅の邪魔にならない本のサイズも素晴らしいところ。

掲載されている情報も小さなわりにはたくさんつまっています。こちらの本をもって京都の仏像の旅をしてみてはいかがでしょうか。

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