【仏像の種類:馬頭観音とは、ご利益・梵字、真言など】菩薩なのになぜ激怒?!道の石仏は昔の人々の馬への感謝の表れ


今回ご紹介する観音さまは馬頭観音菩薩(ばとうかんのんぼさつ)。え?!ちょっとハナシが違うじゃないですか! 観音菩薩さまというのは、いつも慈悲の表情をたたえた優しい仏さまのはずなのに、馬頭観音はなぜ怒る!? 観音さまの中で唯一怒っている上に、頭になぜか馬がくっついてる謎多き観音さまのご登場です。観音さま、一体どうしちゃったの!?

 

馬頭観音の主な働き

他の観音像が女性的で美しい表情であることが多いのに対して、女性的でないどころか、めっちゃ怒ってる馬頭観音。実は、その怒りように「馬頭(めず)明王」と呼ばれることもあるそうです。やっぱりね。お姿だけを見ていると明王グループの仏さまかと思ってしまいます。

 

でもその怒りの表情には理由があります。怒りの激しさによって苦悩や諸悪を粉砕し、馬が草を食べるように煩悩を食べ尽くして災難を取り除く、とされているんです。なるほど、だから馬が頭にあるわけですね。こんなとてもパワフルな観音さまは、天台宗のいわゆる六観音メンバーとして、聖観音・千手観音・十一面観音・如意輪観音・不空羂索観音と共に名を連ね、畜生道(ちくしょうどう)に迷う人々を救済します。

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道端にある馬頭観音

怒りの表情からはちょっと想像しづらいんですけど、馬頭観音は庶民のためにいろいろ世話を焼いてくれる仏さまです。怒ってる顔はしていても、それは人の煩悩に対してであって、人間に対して怒っているわけじゃないんですね。

しかも、馬頭観音の優しさは、人間だけに留まりません。馬を含める家畜の安全と健康を祈る観音でもあるんです。昔、馬は武家にとっても農民にとっても生活にはなくてはならない動物でした。農耕に活躍し、移動手段としてとても大切だった馬。旅の道中を守る観音として、路傍には石の馬頭観音像が刻まれるようにもなりました。人々の生活とは切っても切れない関係の家畜の象徴として、最も大切だった馬を掲げた観音さまなんです。

 

 

当然、馬を供養する仏としても信仰されました。競馬関係者からは現在も篤い信仰を集めています。競馬場の近くによく祀られ、レース中の事故で亡くなった馬を供養していることもあるそうです。

 

馬頭観音は顔は怖いけど人間だけではなく、物を言わない動物の守護仏としての役目を果たす、とっても優しい観音さまでもあるんですね。

 

馬頭観音の成り立ち

ヒンドゥー教の最高位であるビシュヌ神が馬の頭に変化して敵を倒したとされる神話を起源としています。もともと馬はインドでは四聖獣(獅子、象、牛、馬)の一つとして神聖視されていたのです。仏教以前のバラモン的要素を多分に持つのがこの馬頭観音です。

日本においては、平安時代に六観音信仰が盛んになってきたときに馬頭観音は畜生道を守護する仏という役割を持つようになりました。

 

ビシュヌ神

 

馬頭観音の見た目

 

像容は、一面二臂像、三面増は二・四・六・八臂、四面八臂像など多種多様で、立像・坐像ともに作られます。身体を赤く彩色する像もあり、顔は忿怒形で表現されます。持物には武器類が多く、手には煩悩を打ち砕く剣や斧、棒を持っている姿が多いです。他の観音菩薩と違って戦闘的で観音らしくないところが馬頭観音の特徴です。

そして、衆生の煩悩を食い尽くすことを表現して頭上に馬の頭部を冠のように戴きます。

いろいろあってややこしいと思うかも知れませんが、頭の上に馬を乗せている仏さまはこの観音さまだけなんですから、ぜーったいに見間違えることはありません。また、人差し指と薬指を伸ばして中指を折る馬口印(まこういん/ばこういん)という馬頭観音に特有の印相を結んでいます。

馬頭観音の真言と梵字・ご利益

この文字が馬頭観音を表わす種字です。「カン」と読みます。

真言は「オン・アミリトドバン・ウン・パッタ・ソワカ」。

馬頭観音らしく、そのご利益には無病息災、厄除けの他に、動物救済、旅行安全などがあるとされています。

馬頭観音の主な例

福岡県・観世音寺/馬頭観音立像【重文】(平安時代)

観世音寺は福岡県太宰府市にあり、天智天皇開基と言われる天台宗の寺院です。九州随一の仏像彫刻の宝庫として知られるこの古寺に、馬頭観音像の傑作と言われる像があるんです。

像の体内に観世音寺の責任者として活躍した人物の銘が残されていたことで、この像は日本の数少ない馬頭観音造像例の中でも最古のものであることがわかりました。

馬頭観音については、経典にさまざまな姿が説かれますが、こちらの観世音寺の馬頭観音像は四面八臂。他には見当たらない珍しい作例です。

像高約5mの圧巻の像。正面、左右、そして後頭部に4つの面があり、それぞれの額に第三の眼があります。手は左右に3本ずつがそれぞれ異なった持物をとり、正面で組んだ手は馬口印という独特の印相を表しています。

表情は怒っていますが、怒りまくるというよりは、誇張のない落ち着きのあるお顔です。長い下半身の衣の折り返される布の様子やひだのつくり方は、美しく、ていねいに作られています。

 

福井県・中山寺/馬頭観音菩薩像坐像【重文】(鎌倉時代)

福井県高浜町、若狭富士の中腹にある中山寺は、北陸三十三ヶ所観音霊場の第一番札所。1343年建立の本堂(写真)は、国指定重要文化財となっています。

ここのご本尊こそ、木造馬頭観音菩薩像で、33年ごとに御開帳となる秘仏です。

坐像なのにとても勢いのある像。馬頭観音蔵の名品のひとつとして名高いのにも納得です。永く秘仏として厨子に納められてことから、彩色も台座や光背も当初のものが残っている保存のよい仏像です。三面の頭と締まった体のバランス、八臂の配置、そしてラフな感じで左右に広げる膝の様子が見事です。右膝を少し浮かした感じで、左右非対称にくつろげる中、右足の親指を反らしたところに動きが感じられます。足の裏を正面に向けている仏像は珍しいですよね。彫り口、彩色技法などから13世紀半ばの制作と考えられ、洗練された作風から南都系の仏師によるものではないかと言われています。

石川県・豊財院(ぶざいいん)/馬頭観音立像【重文】(平安時代)

今からおよそ700年前の鎌倉時代に、道元禅師から四代目にあたる瑩山紹瑾(けいざんじょうきん)によって、能登で初の禅修業の場として開かれたのが豊財院です。

ここには3体の等身大くらいの観音像があり、聖観音像を中心に、向かって左に十一面観音像、そして右に馬頭観音像が祀られています。

間近で拝観することができるので、実際のサイズよりもボリューム感のある像が一層大きく思えるかも知れません。3体は作風が似ており、セットだった可能性もあります。

馬頭観音は三面六臂。忿怒の表情で少し口が開いています。六臂のうち二臂は正面で手を合わせて印を結びますが、対称的に配置された他の四臂は、持っていたはずの持物が既になくなってしまっています。像の表面には傷みも多くあり、厳しい環境の中で長く置かれてあったことが想像されます。どっしりと直立する観音像です。

【書籍紹介】菩薩のことをもっと知りたくなった時には…

ここでは今回紹介した菩薩以外にもより深く仏像について学ぶことができる書籍・DVDをご紹介いたします。どれもわかりやすく書かれている初心者~中級者向けの本ですので、お気軽にお読みいただけるかと思います。

仏像大図鑑 如来・菩薩像のすべて

菩薩像の種類や特徴、もっているものなど、菩薩像とは…をギュッと1冊に凝縮した菩薩のすべてが理解できる教科書。 カラー写真やこの本のために撮りおろしされた写真も多いので、菩薩像のあらたな魅力を発見できるかも?!

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菩薩像のすべて

とにかく写真が豊富、紹介している仏像が豊富という本。日本各地にある代表的な菩薩像を掲載しています。

如来像のすべてや、明王像のすべて、天の仏像のすべてなど仏像界の各ランクごとに専門的に切り込んでいる「◯◯のすべて」シリーズの菩薩像バージョン。これはぜひ全シリーズそろえたいですね。

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十一面観音巡礼(白洲 正子)

鋭い眼力と個性的な感性で日本の美としての仏像の魅力を発見しては文章で表現していった昭和の随筆家・白洲正子さん。

彼女が自ら歩んで出会った十一面観音めぐりのエッセイ。白洲正子さんの美しい文章で、じんわりと日本の土地に根付いた十一面観音像が紹介されています。

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京都仏像めぐり (たびカル)

女性向けの可愛らしい本ですが、京都の旅で見るべき仏像が凝縮されていてとてもわかりやすい内容になっています。旅の邪魔にならない本のサイズも素晴らしいところ。

掲載されている情報も小さなわりにはたくさんつまっています。こちらの本をもって京都の仏像の旅をしてみてはいかがでしょうか。

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