【仏像の種類:聖観音菩薩とは】シンプル・イズ・ベスト!変身が得意な菩薩のありのまま


何事も基本は大事なのです。観音さまには千手観音や十一面観音などいろんな種類がありますが、やはりその基本となる原型の観音さまのことを知らずして観音菩薩は語れません。そこで、この「聖観音(しょうかんのん)菩薩」の登場です。

 

出展:SLAM DUNK

聖観音菩薩の主な働き

 

 

聖観音菩薩は全ての観音菩薩の基本形となる観音さま。いわゆる観音菩薩、観世音菩薩ですが、ヘンシンを特技とする菩薩における変化観音と区別する意味もあり、基本の観音さまのことを「聖観音」もしくは「正観音」と呼びます。

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観音菩薩は阿弥陀如来の三尊像では勢至菩薩とともに脇侍とされていますが、単独で祀られることも多いのがこの聖観音です。

 

 

そもそも、「観音」という名前は、人々を常に「観」て、救いを求める「声(音)」があれば瞬く間に救済する、と言う意味があります。日本ではとても人気の高い菩薩さまです。

 

観音菩薩の成り立ち(観音経について)

さて、如来グループが聖観音を中心に、バラエティ豊かな観音さまに変身して人々を救おうとするにはその根拠となる経典があるのです。『法華経』の中の第25章「観世音菩薩普門品」を別出して1巻としたものを『観音経』と呼びます。

 

その『観音経』の中で 観音菩薩は施無畏者であると言っています。施無畏者とは「怖いことや災いのない状態を人々に施してくれるもの」という意味。一切の衆生を救ってくれる生粋の現世利益の仏が観音なのです。

さらに「観音菩薩は三十三の変化をしてすべての人々を救う」という意味の記載があるのです。それを根拠に聖観音はさまざまな形の観音菩薩に変化し、その姿が仏像となりました。

 

この『観音経』は仏教界の中でもかなりのベストセラーです。

翻訳されたものが中国や日本で広く読まれ、梵本、チベット語訳、漢訳などの他にもウイグル分、蒙古文、トルコ文などに書写されたものも発見されていますから、いろいろな地域や国に流布していたことがわかります。観音を心に念じその名を称えれば,いかなる苦難からも逃れることができることを説き,信仰をすすめている経典です。

 

観音の変化の種類

如来は悟りの境地に至った仏で、菩薩はまだ悟りには至らず修行をしている立場にあります。同時に菩薩は我々を手助けし悟りへと導くとされています。そのため、如来より我々に近い存在の仏像ということになります。

 

観音菩薩と名の付く仏像には頭に阿弥陀如来の化仏が付いているものがあります。それは、観音菩薩は阿弥陀如来が変化して、あえて悟りを開く前の姿になっていることを意味します。つまり、阿弥陀如来は悟りを開いた如来というトップの位にいる仏さまなのに、わざわざ菩薩に一段階ステップダウンして全ての人を救うために身近な存在として、聖観音となったわけです。

しかも、その聖観音は全ての観音さまの基本形。つまり千手観音、馬頭観音、十一面観音、准胝(じゅんでい)観音または不空羂索観音、如意輪観音と共に六観音の一つであり、その他の五観音に変化し、さらに三十三観音などのさまざまな観音に身を変えて救いの手を差し伸べるわけです。

もう、観音グループというのは、変身することであらゆるニーズに応えようとするお助け集団。また、三十三観音の33という数字は具体的な数を示しているわけではなく、全ての人に合わせて「何通りでも、どんな姿になってでも個別的に救済しますよ」ということを表わしているんです。観音グループがとてもハードワーカーなのは理解できますよね?

 

 

聖観音菩薩の真言と梵字、ご利益

聖観音を一文字で表わす梵字を「サ」と読みます。それはこんな文字です。

 

「聖観音 梵字」の画像検索結果

 

聖観音は、梵名アーリヤ・アヴァローキテーシュヴァラと呼ばれます。その真言は「オン・アロリキヤ・ソワカ」。これを唱えるとあらゆる災難から逃れられ、運気を好転させるというご利益があります。さすが、全ての観音さまの基本形となる観音さまだけあって、オールラウンドなご利益はありがたいですね。

聖観音菩薩の見た目の特徴、見分け方

 

さて、聖観音菩薩像を見分ける方法はシンプルです。変化しないオリジナルの観音さま、ということで、顔は1つ、腕は2本です。いたってフツー。そして、宝冠をかぶり、左手に蓮華(れんげ)や水瓶(すいびょう)を持ち、蓮華台座にのる姿が一般的です。

出家前の釈迦をモデルとしているところから、やはり他の菩薩と同様宝冠や首飾りなどきらびやかな格好をしていますが、その宝冠に阿弥陀如来の化仏がついているものもあり他の観音さまと共通で、それが観音さまとしての目印です。

 

日本における聖観音菩薩の主な例

奈良・薬師寺/聖観音立像【白鳳時代】(国宝)

 

京都は薬師寺東院堂にあるのが国宝・聖観世音菩薩像。白鳳時代を代表する銅造の聖観音像です。同じく銅造の薬師三尊像が人気ありますが、その三尊像よりもさきに造立された仏像なんです。それにしても、薬師三尊損の両脇侍ととてもよく似た、全国でも指折りの美しい観音さま。

 

 

特徴はその衣のひだ。足が透けているように見えますが、それは古代インドのグプタ様式の彫刻法の影響を受けたと言われています。すっと立った様子がとても直線的で、つやつやした肌、しなやかな肢体、そしてスタイルの良さは若い青年のよう。銅製とは思えないような繊細さと薄く透けるような衣の表情が秀逸です。

秋田・小沼神社/聖観音立像

 

 

秋田県大仙市にある小沼神社。寺院ではなくて神社に聖観音像が祀られています。名前の通り、緑深い中、小沼が社殿の前にあるひっそり佇む神社です。十一面観音と一緒に並んで立っておられる聖観音像。ケヤキの一木造りで170.2cmの像高。膝頭の位置が高いせいで足がとても長く見えます。ちょっと顎をひくように真っ直ぐに立ち、細身の身体で肩を少しいからせるような体型が特徴的。

 

ちょっとおちょぼ口というあまりみられない顔つきの像です。となりの十一面観音像がすこしがっちりした身体つきなので、すらりとした体型が強調されるようです。神社に安置される像という設定のせいか、不思議な感覚にさせられる像です。制作年代についてはいろいろな説があり、奈良時代から鎌倉期12世紀後半くらいまでの間のいつかはよくわかっていません。ちょっとミステリアスで幻想的なところが魅力の観音さまです。

 

兵庫・鶴林寺/金銅聖観音像(通称・アイタタ観音)【白鳳時代】国重文

 

鶴林寺は播磨の法隆寺と呼ばれる聖徳太子ゆかりの寺院です。

白鳳期の仏さまはわりと若々しく、あどけない表情の仏さまが多いですが、この鶴林寺にある観音菩薩立像も可愛いお顔ですよ。

 

この像高83cmの観音さまにはおもしろいニックネームがあります。それは「アイタタ観音」。昔、仏像盗み出して溶かし、金儲けしようとした賊がなかなか火にとけない仏像を怒って金槌で叩いたところ、「アイタタ!」と叫んで腰を曲げたのだそうです。賊はびっくりして、像を返還し、改心したという逸話からこんな呼ばれ方をするようになりました。像は境内にある宝物館に安置されています。

つやつやの肌に華奢な腰をぐっと右に捻るその曲線と流れるような天衣の様子がとても繊細。ちょっとまだ幼いような顔つきの観音さまで、わずかに微笑みをたたえたような口もとを見ていると「アイタタ」のエピソードもあいまって親しみが湧いてくるようです。