【仏像の種類:勢至菩薩とは】観音菩薩とお迎え系コンビ結成、落とし穴注意!智慧の光で人々を照らす!


「菩薩の名前を挙げてみて」と言われて、最初に勢至菩薩の名を挙げる人はなかなか通(つう)なお方。地味に感じるところもあるでしょうがなかなかこれがあなどれない渋い仏さまなんです。

勢至菩薩の主な働き

勢至菩薩は、サンスクリット語でマハースターマプラープタ(偉大な勢力を得たもの)といい、大勢至菩薩とも呼ばれます。

 

阿弥陀如来の脇侍として、観音菩薩と対になるようにして共に脇に控える勢至菩薩。

でも、変身バリエーションの豊富な観音に比べると何だか目立たないかも。

 

 

ペアを組む観音菩薩と違ってソロで祀られる独尊像があまりないのも、知名度の低さに繋がっているような気もします。

とはいえ、勢至菩薩はとても知的な役割を持っています。それは、智慧の光で、六道に迷う衆生を照らし、救いの道を示すこと。そういうと、あれって思いませんか? だって、智慧が売りの仏さまなら、釈迦の智慧を持つ文殊菩薩や記憶の智慧を持つ虚空蔵菩薩などもいますよね。でも、勢至菩薩の智慧はもっと実戦的。

だって、勢至菩薩は人を救う強い智慧でピンポイントに無知な衆生が地獄道・餓鬼道・畜生道に落ちないように救ってくださるんですから。

 

 

危なっかしい無知な人間を放っておけないという菩薩さま。昔、愛情を持って悪ガキを叱ってくれる近所のおじさんがいたものですが、そんな感じの菩薩さまです。

 

さて、人間と比べれば遙かに長いとはいえ、阿弥陀仏や他の仏さまにも寿命があります。 『大阿弥陀仏経』にはこんなことが書いてあります。つまり、阿弥陀仏が入滅すると、観世音菩薩が如来になって後を継ぎ、この観世音菩薩が入滅した際には、勢至菩薩が後を継ぐ、と。自ら力をひけらかすことなく、日々静かに役目を果たす存在ですが、勢至菩薩の真の姿は最後に全てを背負って立つ頼りがいのある懐の深い仏さま。なんたって、最終的に極楽浄土を引き継ぐ主は、勢至菩薩であると『大阿弥陀仏経』に書かれているんですから。

二十三夜講とは

基本的にソロで活躍することのない、つまり独尊とならない勢至菩薩。でも主役を張れるチャンスが月に一回やってきます。それが民間で毎月23日に行われる「二十三夜講」と呼ばれる月待ちの行事。

 

18世紀の後半頃から昭和の初期にかけて、日本の各地で「講」を組織した人々が集まり、月齢に合わせた仏さまの縁日に宗教行事を行っていました。これは十五夜、十六夜、十九夜、二十二夜、二十三夜などに飲食を共にし、経を唱え、月を拝んで悪霊を追い払うというもの。勢至菩薩の当番は二十三夜なんです。その時ばかりは勢至菩薩が主役の本尊。勢至菩薩が月の化身だと信じられていることもあって、二十三夜は他の日よりもことさらに特別とされ、他の縁日よりも全国的にポピュラーです。この日に勢至菩薩に祈れば、不老長寿、延命などのご利益があるほか、罪が消えるもしくは罪に手を染めさせないようにしてくれるとも言われています。

 

勢至菩薩の見た目の特徴、見分け方

 

独尊で信仰されることが稀で、観音と対になって阿弥陀如来の脇侍としてつくられます。

 

『観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)』には、観音は化仏を、勢至は水瓶を宝冠に掲げることが記されており、これが両菩薩を見分けるポイント。脇侍としては、勢至菩薩が阿弥陀像の右側(向かって左)に安置されることが殆どです。

 

 

立像も半跏像もあり、さらに浄土教の人気とともに流行する来迎の時を表わす阿弥陀三尊の場合には、跪座(きざ)という正座のような坐り方をします。衆生が乗る蓮台を差し出す観音像に対し、合掌しているのが勢至菩薩のパターンもありますが、来迎印(らいごういん)を示したり、密教では蓮華(れんげ)を持ったりなど手の形は一定していません。

勢至菩薩の成り立ち

『大経』や別の説話によると、その昔インドにいた王と二人の息子が、後世で阿弥陀如来と観音菩薩、勢至菩薩となって三尊像となったり、悪党に騙されて死んでしまう運命の兄弟が運命を受け入れ、苦しむ人たちを救うために観音菩薩、勢至菩薩に生まれ変わったりしたといいます。

そうであれば、観音菩薩と勢至菩薩が対になって阿弥陀如来の脇侍となり、二体の菩薩像が似ているのにも納得です。

 

また、勢至菩薩の宝冠に掲げられる聖水が入っている水瓶についても起源があると考えられています。

 

勢至菩薩はヒンドゥー教やゾロアスター教の水の神でもあり、汚れのない水が入っている水瓶というのはここから来ている可能性があるそうです。仏教はインドで生まれて発展し、インドにあった宗教から神さまやいろいろな概念のいいとこ取りをしながら変化してきました。勢至菩薩の背景もその一端を示していると言えるでしょう。

 

 

勢至菩薩のご利益、真言と梵字

 

 

これが勢至菩薩を一字で示す梵字・種子(しゅじ)です。「サク」と読みます。そして勢至菩薩は午年(うまどし)の守護本尊です。

 

勢至菩薩の真言は「オン・サンザンサク・ソワカ」。ただ無心にこの真言を呪文のように唱えることが大切なのだそう。人としての道を踏み外すこと無く生きる智慧を得ることができ、家内安全、開運招福のご利益があるとされています。

勢至菩薩の主な例

京都市左京区大原・三千院/木造勢至菩薩立像(木造阿弥陀如来及両脇侍坐像)【国宝】(藤原時代1148年)

 

京都の大原三千院の本堂・往生極楽院に金色に輝く国宝で、木造寄せ木造りの阿弥陀如来像、観音菩薩像、そして勢至菩薩像が安置されています。

 

三千院は昭和歌謡曲に馴染みのある方であればデューク・エイセスの「女ひとり」という歌の冒頭でこのお寺の名前が使われているので、お母さんやおばあちゃん世代にはとても有名な寺院です。

 

その三千院にある平安後期作を代表する三尊こそ中尊である阿弥陀如来(像高233cm)、観音菩薩(像高131.8cm)、そして勢至菩薩(像高130.9cm)の三体。阿弥陀如来は来迎印を結び、その左(向かって右)の観音菩薩は蓮台を持ち、中尊の右の勢至菩薩は合掌しているという典型的な「阿弥陀三尊、お迎えに来ました」スタイル。

 

実は通常と違い、この往生極楽院の三尊は拝観者に近く低い位置に安置されています。これは、極楽へ向かって往生した人の枕元に到着した姿を表現するためだそうです。

 

 

ここでの拝観のポイントは、両脇侍を横から見ること。観音菩薩さまも勢至菩薩さまも正座ながらも少し身を乗り出したような前傾姿勢で座っています。これは、「今お迎えにきましたよ」という浄土にむかう者に語りかける姿なのですね。

 

京都・仁和寺/木造勢至菩薩立像【国宝】(平安時代)

 

1994年(平成6)12月「古都京都の文化財」として世界文化遺産に登録された仁和寺。

光孝天皇の勅願により創建され、888年した寺で、ここの霊宝館に、国宝・木造阿弥陀如来座像および両脇侍像(阿弥陀三尊像)が安置されています。寺の創建当時に造られた本尊だったと考えられます。金銅で造られた宝冠と腕釧(わんせん/腕の飾り)以外はヒノキで造られた平安時代の仏像です。阿弥陀如来坐像と観音菩薩立像と勢至菩薩立像の三点セットになった最強のフォーメーションで祀られている仏さまたちです。

 

 

3尊ともに表情が穏やかでぽっちゃりとしたお顔に横に細長い目、さらに高さのある肉髻(にっけい/頭頂部分)が目立ちます。比較的どっしりした印象の両脇侍になんともいえない安らかな心地にさせられます。

 

愛知県名古屋市・長福寿(通称:七寺)/木造勢至菩薩坐像【重文】(平安時代)

 

 

愛知県名古屋市大須地区にある奈良時代創建の古刹・長福寺。ここは戦災のつらい歴史のあるお寺です。七堂大伽藍を有していたこともあり「七寺(ななつでら)」と親しまれていましたが、1945年3月19日の名古屋大空襲で本堂、三重塔など経蔵以外の七堂伽藍全てを焼失。現在は町中にある小さなお寺となっています。

 

1945年 名古屋大空襲で炎上する名古屋城

ここに本尊であり、国の重要文化財・観音菩薩坐像と勢至菩薩坐像が安置されています。当時にお寺にいた住職たち2名が一人一体ずつなんとか持ち出したことによって救い出され、戦火を免れた貴重な仏さまたち。当時の本尊だった阿弥陀如来像と二体の天部像は助けられず焼失したそうです。

 

阿弥陀様との三尊形式を拝むことは叶わなくなってしまいましたが、大空襲を生き残った観音・勢至菩薩の平安時代から変わらない優しいお顔と、満身創痍で銅板でつぎはぎになりながらも参拝者を変わらず迎え入れる本堂前の大日如来の不屈の精神に深い感動を覚えずにはいられません。

【書籍紹介】菩薩のことをもっと知りたくなった時には…

ここでは今回紹介した菩薩以外にもより深く仏像について学ぶことができる書籍・DVDをご紹介いたします。どれもわかりやすく書かれている初心者~中級者向けの本ですので、お気軽にお読みいただけるかと思います。

仏像大図鑑 如来・菩薩像のすべて

菩薩像の種類や特徴、もっているものなど、菩薩像とは…をギュッと1冊に凝縮した菩薩のすべてが理解できる教科書。 カラー写真やこの本のために撮りおろしされた写真も多いので、菩薩像のあらたな魅力を発見できるかも?!

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菩薩像のすべて

とにかく写真が豊富、紹介している仏像が豊富という本。日本各地にある代表的な菩薩像を掲載しています。

如来像のすべてや、明王像のすべて、天の仏像のすべてなど仏像界の各ランクごとに専門的に切り込んでいる「◯◯のすべて」シリーズの菩薩像バージョン。これはぜひ全シリーズそろえたいですね。

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十一面観音巡礼(白洲 正子)

鋭い眼力と個性的な感性で日本の美としての仏像の魅力を発見しては文章で表現していった昭和の随筆家・白洲正子さん。

彼女が自ら歩んで出会った十一面観音めぐりのエッセイ。白洲正子さんの美しい文章で、じんわりと日本の土地に根付いた十一面観音像が紹介されています。

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京都仏像めぐり (たびカル)

女性向けの可愛らしい本ですが、京都の旅で見るべき仏像が凝縮されていてとてもわかりやすい内容になっています。旅の邪魔にならない本のサイズも素晴らしいところ。

掲載されている情報も小さなわりにはたくさんつまっています。こちらの本をもって京都の仏像の旅をしてみてはいかがでしょうか。

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