【仏像の種類:如意輪観音とは】物思いにふけるアンニュイで妖艶な観音は、人々に幸せと財宝を与え、煩悩を打ち砕く!


アンニュイを仏像で表現したら、こうなるんでしょうか。今回ご紹介するのは仏さまとしての近寄りがたさにプラスしてなにか別種の、声を掛けがたい、ちょっと特別なオーラを発している如意輪観音。引き込まれるような何か秘密めいた観音さまですね。何を考えてるんだろう・・・?

如意輪観音の主な働き

 

まず、如意輪観音の名前に注目しましょう。「如意」というのは、思うままに智慧や財宝、幸せをもたらすという如意宝珠という宝の珠(たま)のこと。そして「」は、煩悩を打ち砕く法輪のことです。その二つを手に持った観音さまなので「如意輪観音(にょいりんかんのん)」と呼ばれるわけです。

 

 

六観音の1つに数えられ、天界道に迷う人々を救うとされますが、6本の手で六道すべてに救いの手を差し伸べるともいわれる積極的な観音さま。

 

 

人々に金銀財宝を与え、しかも、その後の精神の幸せまでももたらすと約束し、篤い信仰を集めた太っ腹な観音ぶりは、アンニュイイメージとはちょっと違うみたいだけれど。そう考えるとアンニュイな表情は如意輪観音の余裕の現れとも言えるかもしれませんね。

 

また余談ですが、お気づきの人も多いかもしれませんが、仏像リンクもロゴも実は如意輪観音なんです。

 

これは仏像リンクが目指していきたい「つながり」を「輪」にかけて、如意輪観音をチョイスしました。よく見ていただくと法輪のかわりに「link」を持ってくれています。

 

 

如意輪観音の見た目

 

如意輪観音の姿は色んなバリエーションがあることが経典や図像から分かっています。腕は2本から12本まで種類があり、坐像、半跏像がそのほとんどです。そして超レアケースですが立像も存在しています。

 

9世紀以降は6臂像がメインだったことが、現存する像から窺えます。原則として坐像または半跏像です。右膝を建て、その足裏と曲げた左足の足裏とを重ねるという特殊な坐り方をします。右は仏の足、左は人間を表わし、仏の智慧で自我を抑えるという深い意味がある坐り方なのです。

 

基本の特徴としては、

・腕が6本

・如意宝珠と法輪を持つ

・頬に手を添える

・右足を立てて座る

といったところ。

 

頬に添える手を思惟手(しゆいしゅ)と言い、これからどのように人々を救おうか考えている様子を表します。片膝を立てながら、6本の腕を違和感なく配置するというのは仏像を製作する仏師にとって、難易度の高い技術だそうです。

 

如意輪観音は女性的な仏像が多い!?

一般に観音さまを見ると男性か、女性かよくわからないことがありますね。柔和な容姿が慈母のように慕われていますが、基本的に仏さまには性はありません。女性的な像ではあっても、女性ではないのです。

特に如意輪観音像は女性的な像が多いと感じることが多い仏像のひとつ。如意輪観音が女性的だと感じるのは、それはもしかすると観音像のモデルが女性であることも関係しているのかも。例えば、観心寺の如意輪観音のモデルは嵯峨天皇の皇后・橘嘉智子すなわち檀林皇后と言われ、また神呪寺のモデルは淳和妃の真井御前(如意尼)と言われています。知性を象徴する勢至菩薩などと比べるとずっと女っぽいのは明白です。

 

如意輪観音の成り立ち

 

一般に如意輪観音の信仰が日本に入ったのは8世紀頃。最初は2臂で片足を下ろした姿の観音像だったと言われます。おそらく、後述する東大寺大仏殿脇侍像のようなものだったのでしょう。その後、9世紀に密教が日本に伝えられると、曼荼羅と同様に六臂で片膝を立てた密教系の姿に造られるようになりました。女人救済の考えの広まりも信仰の広がりに関係したと考えられます。

近世においては、安産や子育て、子供の健康を祈願するための女性の集まりである毎月19日の夜に集まる十九夜講の本尊ともなっています。別名子安講(こやすこう)とも言われました。

如意輪観音の真言と梵字・ご利益

 

この文字が如意輪観音を表わす梵字の種字、「キリク」と読みます。

真言は「オン・ハンドマ・シンダマニ・ジンバラ・ウン」。智慧、財福、福徳授与、安産、延命のご利益があるとされています。

日本各地にある主な如意輪観音像

大阪府・観心寺/如意輪観音坐像【国宝】(平安時代)

観心寺は大阪府河内長野市にある高野山真言宗の寺院。南北朝時代に建立された国宝金堂の、内々陣の厨子内に本尊の如意輪観音像が安置されています。仏像ファンの中では如意輪観音と言われればこちらの如意輪観音を思い浮かべる方も多い、というくらい有名な如意輪観音さんです。

 

秘仏で毎年4月17日と18日に2日間だけ開扉されます。如意輪観音は比較的小さな仏像で表現されることが多いですが、こちらの如意輪観音さんは等身よりも少し大きなサイズの像で少し遠目から拝観になりますが存在感を感じます。この観心寺の如意輪観音さんのご開帳大祭はこの河内長野地方の春の風物詩ともなり、多くの参拝客で賑わいます。

 

長く秘仏だったので保存状態がよく、彩色や紋様などが今でもきれいに残っています。基本は木造仏ですが、乾漆技法の併用で、肌の柔らかい感触を表現し、夢見るような顔立ちで密教彫像特有の神秘性と官能性を表現しています。

 

絶妙なのは、6本の腕の位置。顔が少し右(向かって左)に傾くかんじで、光背の中心からはずれていますが、それが動きを感じさせています。日本における如意輪観音像の傑作。

嵯峨天皇の皇后・橘嘉智子すなわち檀林皇后がモデルだと言われている像です。

 

東京都・護国寺本堂/如意輪観音坐像【無指定】(平安時代)〈伝恵心作〉

東京都・護国寺奥の院/琥珀如意輪観音像【無指定】(唐時代)

 

東京でお会いできる如意輪観音さまをご紹介いたします。護国寺は東京都文京区にある真言宗豊山派の寺。徳川綱吉が母・桂昌院の願いをうけて創建した寺院です。東京メトロ有楽町線の駅名にもなっているのでご存知の方も多いかもしれません。こちらには2体の如意輪観音が存在しています。

 

1つ目は本尊の桂昌院念持仏の琥珀如意輪観音(絶対秘仏)で、天然琥珀製の六寸五分(約20cm)の如意輪観音像。1700年に奥の院に移されました。絶対秘仏なので我々は拝むことができません。

 

2つ目が本堂の厨子の中に祀られている本堂本尊の六臂如意輪観世音菩薩像。堀田正虎(幕府の大老)の母・栄隆院尼が寄進したものです。通常の如意輪観音よりもうつむき気味で何かを考えているような表情が特徴的です。女性的で、その控えめな表情とは対称的に、まばゆいばかりの冠と装飾に圧倒されます。五尺六寸(約170cm)で、恵心僧都作と伝えられます。こちらは毎月18日にご開帳となり、一般のわたしたちも拝むことが可能です。

 

兵庫県・神呪寺(かんのうじ)/如意輪観音坐像【重文】(平安時代)

兵庫県西宮市甲山山麓にある仏教寺院です。

こちらに大阪の観心寺、奈良の室生寺の如意輪観音像と合わせて日本三如意輪と呼ばれる本尊の如意輪観音が安置されています。

寺伝にいう空海の時代の作ではなく、10世紀後半から11世紀前半の作とされます。こちらの如意輪観音像は6臂像ですが、通常とちょっと違ったポーズが特徴的。通常の如意輪観音像は右脚を立て膝にするのですが、この像は右脚を斜めにして左脚の上に乗せる珍しい形です。また、頭部が斜め上向きになってちょっと首を傾げるような点も印象的。柔らかなイメージの像です。

 

家業繁栄・商売繁盛のご利益があるとされ、秘仏となっています。融通さん、融通観音とも称されており、5月18日に融通観音大祭の時のみ、本尊の開扉があります。

神呪寺のモデルは淳和妃の真井御前(如意尼)と言われています。

 

※2018年に東京国立博物館で開催された特別展「仁和寺と御室派のみほとけ-天平と真言密教の名宝-」に出展されました。

(参考記事↓)

【3分でわかる仁和寺展/行ってきた!】東京国立博物館 特別展「仁和寺と御室派の...
現在開催されている特別展「仁和寺と御室派のみほとけ-天平と真言密教の名宝-」の見どころや歴史についてご紹介いたします。★いよいよ上野国立博物館で 仁和寺展がス...

 

三重県・観音寺本堂/如意輪観音坐像(四足八鳥観音)【県指定】(平安時代)

 

 

737年開創の浄土宗寺院です。小野の湊(現在の観音寺の近く)に現れた如意輪観音に深く帰依した聖武天皇が創建したと伝えられます。この開創に由来する如意輪観音こそ、現在も本堂に祀られている像です。六本の腕を持ち、右膝を立てて坐る典型的な姿ですが、頭8つ、足が4本の霊鳥に乗った観音さまで、四足八鳥(ろくろみ)観音と呼ばれています。

 

 颯爽としてとてもスマートな素敵な像です。頭に載せた天冠台(てんかんだい)の様式や伏目の形、柔らかな衣の襞(ひだ)や条帛(じょうはく)の様子から平安時代後期の特色が表れています。また、金箔を押さず、彩色も髪や唇に限られ、木肌のあらわな檀像という平安時代に流行った素地仕上げの像であることが分かります。

 

人間の四苦八苦を除き、願いがすべてかなうと信仰されており、毎月18日の縁日には多くの参詣者でにぎわっています。ただし、その姿を拝める機会は住職一代一度限りのご開帳の時だけ。普段はその姿を模した像が厨子の前に祀られています。ただ2012年に三重県パラミタミュージアムで開催された「南都大安寺の至宝と観音さま展」で特別に出展され、その姿を拝むことができました。

 

【コラム】“伝”如意輪観音の謎

 

奈良の中宮寺にある「考える人」、半跏思惟像をご存知でしょうか。広隆寺にある弥勒菩薩とよく似ていると比較される、モナリザのようなアルカイックスマイルをたたえた、母性を感じさせるような優しい像でこの像が好きという仏像ファンも多く存在しますす。

 

実は、中宮寺ではその像は弥勒菩薩ではなく「如意輪観音」と呼ばれているため、たびたび「伝・如意輪観音」と紹介されることがあります。

中国でも日本でも、半跏思惟像はほとんど弥勒菩薩。どうして中宮寺の半跏思惟像は弥勒菩薩じゃないの・・・?

 

理由の一つとしては、当初、弥勒菩薩として造られたものが、平安時代に盛んとなった如意輪観音信仰に応えるため急遽方向転換したから、というのがあります。実際、飛鳥から奈良時代の半跏思惟像ブームの期間は短かったので、そんな事情があの像を如意輪観音に変えてしまったのかも。

また、頬に当てる手(思惟手/しゆいしゅ)は、半跏思惟像と如意輪観音に共通しています。もともと2本だった半跏思惟像の腕が発展して、如意輪観音の6本の腕となった、と考える人もいるそうです。確かに、如意輪観音は当初日本では二臂でした。

いずれにせよ、見かけが弥勒菩薩らしくても、中宮寺の半跏思惟像が二臂の如意輪観音像でない、とは断言することもできず、現在では学術上、弥勒の明示を避け「菩薩半跏像」と呼ぶのが一般的なのだそうです。

【書籍紹介】菩薩のことをもっと知りたくなった時には…

ここでは今回紹介した菩薩以外にもより深く仏像について学ぶことができる書籍・DVDをご紹介いたします。どれもわかりやすく書かれている初心者~中級者向けの本ですので、お気軽にお読みいただけるかと思います。

仏像大図鑑 如来・菩薩像のすべて

菩薩像の種類や特徴、もっているものなど、菩薩像とは…をギュッと1冊に凝縮した菩薩のすべてが理解できる教科書。 カラー写真やこの本のために撮りおろしされた写真も多いので、菩薩像のあらたな魅力を発見できるかも?!

(画像クリックでAmazonへリンクします)

菩薩像のすべて

とにかく写真が豊富、紹介している仏像が豊富という本。日本各地にある代表的な菩薩像を掲載しています。

如来像のすべてや、明王像のすべて、天の仏像のすべてなど仏像界の各ランクごとに専門的に切り込んでいる「◯◯のすべて」シリーズの菩薩像バージョン。これはぜひ全シリーズそろえたいですね。

(画像クリックでAmazonへリンクします)

十一面観音巡礼(白洲 正子)

鋭い眼力と個性的な感性で日本の美としての仏像の魅力を発見しては文章で表現していった昭和の随筆家・白洲正子さん。

彼女が自ら歩んで出会った十一面観音めぐりのエッセイ。白洲正子さんの美しい文章で、じんわりと日本の土地に根付いた十一面観音像が紹介されています。

(画像クリックでAmazonへリンクします)

京都仏像めぐり (たびカル)

女性向けの可愛らしい本ですが、京都の旅で見るべき仏像が凝縮されていてとてもわかりやすい内容になっています。旅の邪魔にならない本のサイズも素晴らしいところ。

掲載されている情報も小さなわりにはたくさんつまっています。こちらの本をもって京都の仏像の旅をしてみてはいかがでしょうか。

(画像クリックでAmazonへリンクします)
 
 
 
 
  .
 
 
 .