【仏像の種類:普賢菩薩のご利益・梵字、真言など】修行がとっても大事だよ!と提言する象に乗る仏ゾウ


 文殊菩薩が獅子に乗っているんだったら、こっちは象だ、とばかりに白象に乗った普賢菩薩の登場です。もちろん普賢菩薩は文殊菩薩に対抗するために象に乗っているわけではありません。その働きぶりを見ていきましょう。

普賢菩薩の主な働き

 

水戸黄門の両脇には「助さん&格さん」という力強い助っ人がいます。これを脇侍(わきじ)と言いますが、お釈迦様である釈迦如来の助さん格さんにあたる脇侍が、文殊菩薩と普賢菩薩となります。釈迦如来の左脇侍が文殊菩薩、そして右脇侍が普賢菩薩というように通常対になって祀られます。「釈迦黄門ご一行様」のようですね。

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 普賢菩薩は、六本の牙を持った白い象に乗ってあらゆる所に現れ、衆生を救う賢く且つアクティブな菩薩さま。文殊の智慧で得た仏道の教えを実践していく役割を担っているのです。

つまり文殊菩薩と普賢菩薩で得意分野を中心に分業しながら、人々を導いていくシステム。それは、釈迦のように悟りを開いて完璧な人間になるためには、修行と智慧の両方が必要だよ、という意味をわかりやすく伝えるためでもあります。仏教というものは、考えるだけの頭でっかちではダメ、修行で鍛えてマッチョなだけでもダメ、両方バランスよく行こうよ、という「知行一致(ちぎょういっち)」の考えも示しているといいます。

ですから、普賢菩薩は単に文殊菩薩の獅子に対抗するためだとか、ビジュアル的に三尊並んだときにバランスがとれないから象に乗ったわけではありません。普賢菩薩が乗っている白象の六本の牙は、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧という6種類の修行を表したもの。

 

象は力の強い動物ですから、仏教の大きな力を連想させ、象が堂々と前進する様子は修行に打ち込む姿をイメージさせるのです。文殊菩薩が智慧を司る「智の菩薩」なら、普賢菩薩は修行を司る「行の菩薩」というわけです。

普賢菩薩の成り立ち

日本に現存する最古の普賢像は、法隆寺の金堂壁画(7~8世紀)に文殊菩薩とともに描かれました。それ以降は、釈迦三尊像の脇侍としての造像された例が多くなります。釈迦と共に智慧の文殊と行動する普賢が脇を固めるといったスタイルの「三尊」は、仏教における一つの理想型でした。

 

 

ところが、もともと脇侍の普賢がやがて独尊として脚光を浴びることに。それには訳があります。初期の仏教では女性は性欲を連想させるから仏道に入れないとか、女性は煩悩が多すぎて解脱できないとかいう、フェミニストが聞いたら卒倒しそうな考えがありました。しかし、10世紀ごろに浄土教が流行すると、誰でも救われるという浄土思想のなかで、「法華経」が女人も往生出来ると説いたのです。それは多くの女性の支持を集め、「女性も仏道に入り悟りに至れるんだ」となりました。その「法華経」に多く登場していたのが普賢菩薩だったわけです。こうして普賢菩薩は特に女性の篤い信仰を受ける独尊としても祀られるようになりました。

 

 

十羅刹女について

 

なかなか女性に人気の普賢菩薩ですが、さて、菩薩をサポートする部下のことを眷属(けんぞく)と言います。普賢菩薩の眷属は10人いて、なんとその全員が女性。

 

昭和・正法寺「鬼子母神・十羅刹女像」

 

彼女たちのことを十羅刹女(じゅうらせつにょ)と呼びます。天女のように装った十人の女性とその母親とされる鬼子母神も一緒に眷属となることもあります。女性十人に囲まれる状態はちょっとしたハーレムのように思うかも知れませんが、そんな浮かれた話しではありません。

 

 羅刹女も鬼子母神も、もともと古代インド神話に登場する人を食らうなどの悪事を働いていた鬼たち。釈迦の説法で仏道に入り普賢菩薩に従うようになった鬼神なのです。恐ろしい女たちを改心させ、従わせるようにした釈迦のすごさと、普賢菩薩の賢明さが羅刹女たちとの主従関係に表現されています。女性の眷属がそばにいることも、普賢菩薩への女性からの信仰を篤くする一因となりました。

 

仏像として普賢菩薩の隣に十羅刹女が彫られることはほとんどありません。しかし山形県寒河江市にある慈恩寺など、数は少ないですが十羅刹女が脇侍となる普賢菩薩が祀られることもあります。ページの下の方に詳しい紹介をさせていただいております。

普賢延命菩薩について

 

 普賢菩薩の発展と同時期に密教では普賢延命菩薩(ふげんえんめいぼさつ)という特別バージョンの普賢菩薩像が、息災延命を祈る本尊としてクローズアップされるようになりました。この場合のお姿はもっと密教的。本来の両手に20本の腕を加えた22手を持ち、4頭の白象に乗った尊格の菩薩さまは真言系です。全部で4手の菩薩さまで、3つの頭を持つ1頭の象に乗るのが天台系。これらは、独尊で祀られることになった普賢菩薩像から派生した密教系の本尊として作られました。

 

普賢菩薩の真言・梵字とご利益

梵字 アン(タトゥーデザイン)

この文字が普賢菩薩を表わす梵字です。「アン」と読みます。普賢菩薩は辰年・巳年生まれの人の守護神とも言われています。

信者たちの期待が尊格の発展に繋がっていった普賢菩薩。その真言「オン・サンマヤ・サトバン」を唱えると災いを避け、寿命が延びるとされています。

普賢菩薩の見た目の特徴、見分け方

 

普賢菩薩も菩薩の仲間ですから、他の菩薩と同様釈迦がまだインドの王子だった頃の服装のきらびやかなイメージで、アクセサリーを付けた仏像です。

 

何といっても普賢菩薩の一番の特徴は像に乗っていること。ゾウは力の強い動物ですから仏教の大きな力を連想させます。一体どうやって普賢菩薩がその白象に乗って座ることができたのかは謎なんですが、象の背に蓮華座を乗せて、さらにその上で絶妙なバランスで結跏趺坐(けっかふざ/両足の甲をそれぞれ反対側の太ももに乗せて組む座り方)していることも大きな特徴です。手には持物は持たず、合掌している姿が最も一般的。これは合掌印と呼ばれ、静かな心の様子を意味します。

また密教系の場合は、三鈷杵(さんこしょ)と三鈷鈴(さんこれい)などの法具を持っていることがあります。

おもな普賢菩薩像

東京・大倉集古館/普賢菩薩坐像<国宝>

大倉集古館は、明治から大正期の実業家大倉喜八郎が、長年収集した古美術・典籍類を収蔵・展示するために1917年東京に開館した日本初の私立美術館です。

 

ここに国宝・普賢菩薩騎象像が展示されています。ヒノキ造りで全高約140cm、像高約55cm。しかし、全体にふっくらとした印象で、頬や胸から肩の曲線がとても優しく、穏やかな眼差しの目で、慈悲の菩薩に相応しい像です。長い歴史の中で、冠、首飾り、光背などは無くなりましたが、気品は失われていません。

 

平安時代の作と言われるこの像が収蔵されるまでの経緯は関東大震災で記録も無くなり不明とのこと。ただ、旧国立博物館の初代館長町田久成(まちだひさなり)より譲り受けたものだそうです。文明開化が叫ばれる中、日本の伝統を伝えるものが無くなっていくことを憂えた大倉喜八郎がこの仏像を引き取り守ったのかもしれません。

※現在、2019年まで改修工事で閉館中です。

大分・大山寺/木造普賢延命菩薩坐像

 

大分県にある天台宗本宮山大山寺は、830年金亀和尚によって開かれたと伝えられています。ここにあるのが国の指定重要文化財・木造普賢延命菩薩坐像です。元々、柞原八幡宮(ゆすらはちまんぐう)境内の普賢堂の本尊でした。のち明治初年の神仏分離の際、大山寺に移されたといいます。

全高180.7cm、像高87.7cm。平安時代中頃の作品と考えられ、普賢延命菩薩像としては現存する最古のものです。気品のある力強い像で、数少ない木造普賢延命像の中で最も優れた作品と言われるのも納得です。台座の白象は少々体つきが幼い象のようにデフォルメされていて可愛い印象。792年に伝教大師が彫ったものだと伝えられます。

山形・慈恩寺/普賢菩薩

 

慈恩寺(じおんじ)は、山形県寒河江市にある仏教寺院で、現在は慈恩宗の本山。

寺伝によれば、聖武天皇の勅命によってインド僧婆羅門僧正が精舎を建立して開祖したのが始まりだそうです。

 

ここの本堂にある「宮殿(ぐうでん)」と呼ばれる厨子に収められているのが、国指定重要文化財・木造騎象普賢菩薩と十羅刹女像。平安時代の作で、普賢菩薩坐像部分は37.1cm、十羅刹女4体はそれぞれ約40cmの像高です。残念ですが秘仏であり公開されていません。写真で見るお姿は静かに合掌し、スッと前方を見つめた気品のある菩薩さま。それに十羅刹女像4体が付属する形になっています。眷属の十羅刹女が像として一緒に安置されているとても珍しいケースです。

宮殿のなかには弥勒菩薩を本尊、不動明王、降三世明王、釈迦如来、地蔵菩薩、騎獅文珠菩薩及び脇侍像などさまざまな平安時代、鎌倉時代の仏像が33体も納められているのですが、残念ながら秘仏となっており拝観できる機会は稀ですが、開帳となった際にはぜひお会いしてみてください!

【書籍紹介】菩薩のことをもっと知りたくなった時には…

ここでは今回紹介した菩薩以外にもより深く仏像について学ぶことができる書籍・DVDをご紹介いたします。どれもわかりやすく書かれている初心者~中級者向けの本ですので、お気軽にお読みいただけるかと思います。

仏像大図鑑 如来・菩薩像のすべて

菩薩像の種類や特徴、もっているものなど、菩薩像とは…をギュッと1冊に凝縮した菩薩のすべてが理解できる教科書。 カラー写真やこの本のために撮りおろしされた写真も多いので、菩薩像のあらたな魅力を発見できるかも?!

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菩薩像のすべて

とにかく写真が豊富、紹介している仏像が豊富という本。日本各地にある代表的な菩薩像を掲載しています。

如来像のすべてや、明王像のすべて、天の仏像のすべてなど仏像界の各ランクごとに専門的に切り込んでいる「◯◯のすべて」シリーズの菩薩像バージョン。これはぜひ全シリーズそろえたいですね。

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十一面観音巡礼(白洲 正子)

鋭い眼力と個性的な感性で日本の美としての仏像の魅力を発見しては文章で表現していった昭和の随筆家・白洲正子さん。

彼女が自ら歩んで出会った十一面観音めぐりのエッセイ。白洲正子さんの美しい文章で、じんわりと日本の土地に根付いた十一面観音像が紹介されています。

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京都仏像めぐり (たびカル)

女性向けの可愛らしい本ですが、京都の旅で見るべき仏像が凝縮されていてとてもわかりやすい内容になっています。旅の邪魔にならない本のサイズも素晴らしいところ。

掲載されている情報も小さなわりにはたくさんつまっています。こちらの本をもって京都の仏像の旅をしてみてはいかがでしょうか。

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