いきなり問題です!仏像は何からできているでしょうか?
「木」とか?「石」とか?想像しますでしょうか。
そもそも仏像を近くでじっくり眺めたことなんてない!という人も多いですよね。
答えを言うと、実は仏像って、いろーんな材質や技法で作られています!
木だったり金属だったり、さまざま。でも日本の仏像の作り方はその時代、時代でブームがあっていろいろと変化していきました。
素材の歴史は仏像の歴史といってもかごんではありません。
古い時代の仏像ほど材質はバリエーション豊か。ちょっと意外ですよね。
今回は、普段あんまり注目することのない仏像の材料に注目してみましょう!
素材に注目することで、その仏像を作った人がどんな苦労でその仏像を作ったのかわかるかもしれません。
まずは歴史をおもいっきりさかのぼって仏像ができた初期のころのお話からみていきましょう。
インド由来!金ぴかの金銅仏
インドから中国へ
最初にご紹介するのは金銅仏です。金銅仏(こんどうぶつ)は仏教が生まれたインドにまでさかのぼる由緒正しい技法です。インドでは仏教の発生より前から銅で作った神様の像がたくさん造られていました。仏教がインドに広まってからは、その伝統の影響で仏像も銅で作られるようになります。
それはなぜか。お釈迦様のお姿も体は金色に光り輝いていた!と信じられていたので、金メッキで美しく仕上げられました。これが「金銅仏(こんどうぶつ)」と呼ばれる仏像です。
やがて金銅仏はシルクロードを伝って中国へ。6世紀頃になると、仏教を保護した中国で大型の金銅仏も制作されるように。技術の発達で美しく繊細な表現も可能になり、金銅仏は全盛期を迎えました。
金銅仏がなぜ重宝されたかというと、仏さまが金ピカだったというだけでない理由もあります。それはとても丈夫だからです。海を超えて日本にやってくる仏像も初期の頃は金銅仏が多く輸入されてきました。
とってもがんじょうな金銅仏は長い距離を運ぶのに適していたんですね。
ではその仏像が日本に入って来てからのお話に移ります。
日本での金銅仏
北魏の金銅仏が最終的にシルクロードを伝わってたどり着いたのが、我が国日本でした!
朝鮮半島の国「百済(くだら)」と仲良しだった日本は、百済から仏教を教えてもらいます。それと同時に仏像も輸入したのです。仏教が日本に輸入されてからは日本でも独自の金銅仏が作られるようになりました。
日本最初の仏像制作者といわれる鞍作止利(くらつくりのとり)が作った法隆寺の「釈迦三尊像」が有名です。
しかし、金銅仏はとにかく手間がかかるのが難点!一度粘土などで型をつくり、それを型取りし、そこに銅を流し込みます。できあがった像はとても重いし、銅をたくさん使うのでお金もかかる!ということで、だんだん日本では金銅仏が作られなくなっていきます。

■金銅仏の作り方
じゃあ粘土をそのまま仏像にすれば?そう思ったそこのアナタは鋭い!次に粘土で作った塑像(そぞう)の仏さまをご紹介します。
ねんどで造形!塑像仏(そぞうぶつ)
塑像(そぞう)は粘土にわらや紙などを混ぜて作ったもので、元々中国の唐の時代に流行した技法で、日本では奈良時代に伝わってかなりの数が作られました。
塑像仏の最大の利点は、金銅仏と比べて手で直接コネコネして好きなように造形できること。皆さんも子供の頃粘土でいろいろなものを作った覚えがありますよね。そんな感覚で、粘土を指先で細かく調整できるので、細かい表現が可能なんです!粘土が材料なので制作コストも安い!しかも粘土なら上から色を塗って、より美しく豪華な仏像にすることだってできるんです!
ここまで読むと、いいことずくめの塑像仏ですよね。でも、塑像仏にはとっても大きな弱点があったんです!
それは、粘土なのでもろいということです。
作った後は乾かさなければいけません。でも、土が乾くと当然割れが生じてしまうんです。時間が経つとボロボロ崩れてしまうことも。
結局、奈良時代と鎌倉時代の一部を除いて塑像仏は制作されなくなってしまいました。
塑像仏の代表作としては、新薬師寺の「十二神将像」などがあります。
奈良時代は仏像制作の実験の時代。様々な技法が試されましたが、塑像と並んで盛んだったのが次にご紹介する乾漆造(かんしつづくり)です。
ウルシを重ねて作った乾漆造(かんしつづくり)
漆(うるし)を使った仏像も奈良時代には盛んに作られました。これを乾漆造(かんしつづくり)と言います。粘土よりも更に細かい造形が可能で、しかも漆のつやつやした質感のおかげでとても生き生きとした像が造れるのが利点です。
ウルシで作られた乾漆造には2種類の技法があるので、それぞれご紹介しましょう。
強度が高い!木心乾漆像(もくしんかんしつぞう)
木心乾漆像は、文字通り木材を中心にしてそこに漆のペーストを盛り上げて作った像です。まずあらかじめ木で簡単に像の形を作っておいて、そこに漆と木の粉を混ぜたもので細かい装飾を施していきます。細かい表現が可能で、高価な漆もたくさん使わなくて済みますが、とにかく重いのが難点でした。
代表作として、大阪、観心寺の「如意輪観音」があります。
空洞で軽い!脱活乾漆(だっかつかんしつ)造り
小学校の図工の工作で風船のお面を作った人は、この脱活乾漆造り(だっかつかんしつづくり)の技法を簡単に理解できるかも知れません。脱乾漆は、芯となる木を中心に粘土で簡単に形を作り、そこに布を漆で何枚も重ねて接着し、最後に芯となっている粘土を抜き取る技法です。
こうすることによって中が空洞で外側には漆と布の膜がある、像の原型ができあがります。そこに更に漆と木の粉を混ぜて作ったペーストで細かい造形を施していきます。
この方法のいいところは、お像自体が軽くて持ち運びしやすくなるところ、細かい表現が可能なところです。反面、当時はとても高価だった漆を大量につかわなければならず、また中が空洞なので壊れやすいという難点もあり、結局奈良時代より後には作られなくなりました。
あの有名な興福寺の「阿修羅像」はこの脱乾漆で作られてるんですよ!
さて、ここまでの技法は残念ながら一時的な流行に終わってしまいました。しかし平安時代になると、木がポピュラーな素材として定着していきます。
日本の仏像といえばやっぱり木造ですよね。でもひとくちに木造仏といっても、実はいろいろあるんです!
木の温かみは日本人好み?一番多い!木造仏
いろいろな実験が行われた飛鳥〜奈良時代。でも結局、日本人の心にしっくり来たのは「木」だったようです。では、どんな木造仏があったのでしょうか。
神聖な木材を使った一木造(いちぼくづくり)
奈良時代と平安初期に主に作られたのが一木造(いちぼくづくり)です。文字通り1本の木から像を彫りだす方法です。この時代の仏像は神聖視されていたご神木を像にすることも多く、1本の木だけを使って作ることにこだわりがあったみたいです。
ただ、この方法には問題も多かった!木は乾燥するに従って割れやゆがみがでてくるもので、1本の木から作った像ではその割れやゆがみがもろに出てきてしまうんです。しかも、1本の木を彫刻するから分業は不可能。像の制作には長い時間がかかってしまいました。
この時代を代表する仏像は岩手県・成島毘沙門堂にある「兜跋毘沙門天立像」です。
仏像造りの大革命!大量生産可能な寄木造(よせぎづくり)
そんな一木造の問題点を解決したのが寄木造(よせぎづくり)です。平安時代の後期に誕生した技法です。仏像を構想段階でいろいろなパーツに分けて考え、割れや反り、ゆがみを計算した上でパーツごとに制作し、最後にくっつける方法です。しかもこれなら、パーツごとに分担作業も可能!仏像を大量生産できるようになったんです!
パーツごとに作って、最後にくっつける。これはプラモデルをイメージしていただければわかりやすいかもしれません。
いいことづくめのこの技法は、平安時代中期以降日本の仏像制作のスタンダードになりました。
これを発明したのが、平安時代最高の仏像制作者である定朝(じょうちょう)です。彼の仏像は優美で優しい表情で平安貴族に大流行!でも、彼のすごさは彫刻の美しさだけではなく、技術のイノベーションにもあったんですね!

定朝の寄木造の仏像は、みんなのお財布の中にある平等院鳳凰堂、そのご本尊の阿弥陀如来坐像として今でも見ることができます。
そしてこの定朝のスタイルのやわらかい表情をした仏像が全国に一気にひろがっていったのでした。
一木造りの進化版!割矧造(わりはぎづくり)
寄木造は仏像制作の一大イノベーションでした。でもやっぱり一木造にこだわりたい、というときも。というのも、ご神木から作る像では他の木を組み合わせると神聖さが減りそう!?とか、小さな像の場合寄木造で細かいパーツを作るのはちょっとメンドクサイ、などいろんな理由があったんですね。
そこで考案されたのが一木造りの進化版である割矧造(わりはぎづくり)です。1つの木からある程度彫り出した像を木目に沿って割り、内側を削った後もう一度くっつけます。そうすることによって像は軽くなり、割れや反りも軽減できるんです。
福島県勝常寺の「薬師如来像」などがこの技法で作られています。
まとめ
仏像の材質には金属や粘土、漆や木材などいろいろなものがありました。
他にも今回は特に紹介しておりませんでしたが、岩や石に仏像を掘り出す「石仏」も現在も広く使われる材質となります。また日本の特定の地域やある一定の時期には「鉄」でできた仏像なんかも登場してきました。そのあたりのお話はまた機会があればすることにしましょう。
飛鳥〜奈良時代にはいろいろな材質が試されましたが、結局木材がいいってことに落ち着いたみたいですね。日本人の心には木が落ち着いたんでしょうね。
みなさんが好きな仏像はなにからできているのでしょうか?
改めて材質にも注目しつつ、拝観してみてください!
■参考図書