仏像の種類:明王(みょうおう) PR

【仏像の種類:大威徳明王とは、ご利益など】牛に乗ったゆる系明王と思いきや、恐ろしい力を持つ五大明王メンバーの一人

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今回紹介する仏像の種類は大威徳明王(だいいとくみょうおう)。「大得意(だいとくい)」でも「大威張(おおいばり)」でもありません。「大威徳(だいいとく)」です。耳慣れないという人も、一度覚えたらこの明王を他と見間違えることはまずありませんよ。水牛に乗った6つの顔、6本の腕、6本足の明王さま。怖い顔の大威徳明王は5大明王の一員です。6本も足があるのに、メンバーの中で一人だけ坐っているという・・・。いえいえ、文句言ってるんじゃないんですよ。なんだかすごく強い明王らしいですから、ちゃんと言うこと聞きましょうね!

 

大威徳明王の主な働き

不動明王を中心に、降三世(ごうざんぜ)、軍荼利(ぐんだり)、金剛夜叉もしくは烏枢沙摩(うすさま)と共に五大明王のうちの1尊で、西方を守護します。日本では、大威徳明王は六面六臂六脚で、神の使いである水牛にまたがっている姿で表現されるのが一般的。五大明王の中で唯一坐っている明王です。特に日本では脚が多数ある仏尊は他にほとんど無く、六足尊とも呼ばれます。

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大威徳明王の見た目

水牛に乗っていることと6本足がユニークポイント。他にそんな仏さまはありません。足だけでなく6つの顔と6本の腕もこの明王の特徴です。2手は大威徳明王の根本印である檀陀印(だんだいん)を結びます。中央で両手を組み小指と薬指を絡ませるように折り、中指を立てる印相です。そのほか右の2手は剣と棒、左の2手は三叉戟(さんさげき)、輪を持ち、顔には三つの目があります。

 

多面多臂になっているのには理由があります。6つの顔は六道(地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天上界)をくまなく見渡すため。6本の腕は矛や長剣等の武器を持って仏法を守護するためにあります。そして、6本の足は6種の修行項目である六波羅蜜(布施、自戒、忍辱/にんにく、精進、禅定/ぜんじょう、智慧)を怠けず歩き続ける決意を表しているのです。ちなみに忍辱とは侮辱・迫害に耐え恨まないこと、禅定とは禅の集中した心の状態のことです。

なぜ牛に乗っているの?

さて、明王の中で大威徳明王だけが水牛に乗っているのは何故でしょう? 実は、チベット仏教に一つの話しが伝わっています。

ある修行僧が、長年の修行のいよいよ最後の時、盗賊たちに襲われ、水牛ともども首をはねられて殺されました。悟りの直前に殺害された修行僧の怒りの怨念は凄まじく、落ちていた水牛の首を自分の胴体に繋げ、盗賊たちを皆殺しにした上、関係ない人々まで襲い始めます。そこで人々に助けを求められた文殊菩薩が、忿怒相を現わして自分自身もヤマ(修行者の怨霊)と同様の牛面で悪鬼以上の武器を持った姿に変身して怨霊を倒したのです。この時の姿が大威徳明王だといいます。この伝説から水牛との関わりが指摘されています。

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大威徳明王の成り立ち

 

チベット仏教では文殊菩薩の化身とされ、日本では文殊菩薩に加え阿弥陀如来を本地とし、この二尊が人々を導くために恐ろしい姿に変化したとされる大威徳明王。「ヤマーンタカ」という梵名は、ヒンドゥーの死の神「ヤマ」を「アンタカする(終わりをもたらす」、の意味が発展して「閻魔のような死の神を倒す者」つまり「大きな威力を持つ者」=「大威徳」と呼ばれました。

 

 

実は京都夏の風物詩「祇園祭」にも深く関わりがあるのです

大威徳明王は、生あるものを害するすべてを打ち倒すのがその役目です。梵名をヤマーンタカといい、「夜摩(ヤマ)を終わらせる者(アンタカ)」の意味を持つ語源は「夜摩=閻魔」を倒す者」。なんとあの閻魔さまをも超える強い存在なんです。その力強さに「降閻魔尊」と呼ばれるなど、日本で平安時代後期から戦勝祈願の対象になったのも納得です。

中国では大威徳明王または牛頭天王(ごずてんのう)とも呼ばれました。牛頭天王は、釈迦の生誕地に因む祇園精舎の守護神。スサノオの本地とも言われています。中世までには神仏習合を元にした祇園信仰が、日本全国に広まり、特に都市部で信仰されました。

京都祇園の八坂神社では祇園天神とも称されて除疫神として祇園御霊会(祇園祭)で祀られるようになりました。平安末期に疫病神を鎮め退散させるために花笠や山鉾をだして市中を練り歩いて鎮祭するようになったのが祇園祭の起源なのです。

 

名前の語源であるヤマーンタカには死神ヤマが象徴する、終わらない輪廻をストップさせる意味もあります。密教には三輪身という考えがあって、仏が教えを説くときに、その人に教えが伝わりやすい姿に変身して現れるといいます。大威徳明王は実は、三輪身の一つの形として仏智の象徴である文殊菩薩、衆生を極楽浄土に転生させ成仏に導く阿弥陀如来の化身なのです。ですから大威徳明王には戦いだけでなく、衆生に悟りを開かせ、解脱させることで延々と続く輪廻から解放させるという使命があります。

 

 

大威徳明王の真言と梵字、ご利益

 

この文字が大威徳明王を表わす種字です。「キリーク」と読みます。

閻魔をもしのぐという強さにちなんで、戦勝祈願、煩悩除去のご利益があるとされています。真言は「オン・シュチリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカ」。

大威徳明王の主な例

京都・醍醐寺五大堂/大威徳明王坐像【重文】(平安時代)

 

醍醐寺は、京都市伏見区にある真言宗醍醐派総本山の寺院です。五大堂の本尊、五大明王像のうちの大威徳明王で、唯一残る当初からの像です。像高80cmの木像で、六面六臂六足の像。立った水牛の上に坐っているという点がユニークで、水牛は愛嬌のある表情です。明王は頭と体のバランスが良く、伸びやかな手足で、眉をぐっとつり上げ、両眼を大きく開いた忿怒像です。顔の表情以外に大きな誇張はありません。2つの手は檀陀印を正面で結び、戟(げき)と宝剣を持った以外の2つの手には何も持仏がありませんが、おそらく羂索(けんさく)や宝棒(ほうぼう)を持っていたと思われます。生き生きとした端正で迫力のある像は当代を代表する一尊です。

大分県・真木大堂/大威徳明王坐像【重文】(平安時代)

真木大堂は大分県豊後高田市田染真木にある仏教寺院で、馬城山伝乗寺(まきさんでんじょうじ)の堂のひとつであったと言われています。伝乗寺は、718年に開創されたと伝えられ、かつては七堂伽藍を有する大規模寺院でしたが、約700年前に焼失。現在真木大堂に収められている国の重要文化財の4件9体の仏像は、伝乗寺の各堂宇にあったものが、一箇所に集められたのだそうです。

ここに、怒りをもって人々を強力に導く6つの顔、6本の腕、6本の脚を持つ、大威徳明王像が安置されています。中央の手は中指を立てて合わせる檀陀印(だんだいん)を結び、雄々しく水牛にまたがっています。241cmの像高は、大威徳明王としては国内最大。見る者に重い迫力を与え、大分の地に花咲いた平安の仏教文化を象徴する仏像となっています。

神奈川・金沢文庫/大威徳明王坐像【重文】(鎌倉時代)〈運慶作〉

横浜市金沢区金沢町にある金沢文庫(かねさわぶんこ、かなざわぶんこ)は、鎌倉時代中期に金沢流北条氏の北条実時(さねとき)が設けた日本最古の武家文庫です。現在は「神奈川県立金沢文庫」の名称で県立の歴史博物館となっています。

ここに、数少ない運慶の真作であり、最晩年の作として歴史上極めて重要視されている大威徳明王が安置されています。

1998年12月に称名寺子院光明院で発見された大威徳明王坐像の内部には、来歴を示す文書がありました。そしてそこには、鎌倉幕府の源頼家・実朝の養育係だった重臣、甲斐源氏加賀美氏出身の「大弐殿(だいにどの)」が、「法印運慶」に作らせたと書かれてあったのです。専門家の見解も運慶に間違いないとのことで、大発見でした。

6手・6足で水牛に乗る姿のはずが、現状では手が一本、顔も正面と左面のみが残っただけの水牛座もない21.1cmの像です。しかし、上品で端正な顔、太造りで引き締まった胴体はまさに運慶の作風です。

アメリカ合衆国・ボストン美術館/大威徳明王画像(鎌倉時代)

1876年に開館したボストン美術館は、約50万点にも及ぶ作品を収蔵しており、その中には10万点を超える日本美術のコレクションもあります。明治維新後、日本国民が伝統美術を軽んじていたなか、フェノロサとビゲロ-という二人のアメリカ人によって保護された膨大な数の美術品がほとんどこの美術館に寄託されているのです。

その中に大威徳明王の図像があります。紅蓮の炎に包まれた、六面六臂六脚で恐ろしい形相の画像は、色鮮やかで、エネルギーを感じさせる作品です。水牛に跨がり、腕を振り上げて忿怒の表情の大威徳明王。頭には恐ろしげな頭蓋骨を身につけているのが見えます。

【書籍紹介】明王のことをもっと知りたくなった時には…

ここでは今回紹介した明王以外にもより深く仏像について学ぶことができる書籍・DVDをご紹介いたします。どれもわかりやすく書かれている初心者~中級者向けの本ですので、お気軽にお読みいただけるかと思います。

読むだけで不動明王から力をもらえる本

「あなたを見捨てません、どんな時も味方でいてくれます。」という不動明王を具体的に、拝み方の流れやお経なども紹介されていて信仰する時の入門書として安心して読める内容になっています。

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