山形・慈恩寺の仏像|十二神将と薬師三尊、騎獅文殊・騎象普賢に会う(拝観料・時間つき)

山形県寒河江(さがえ)市。山の中腹に、茅葺き屋根の大きな本堂が建っています。参道のまわりは、さくらんぼの農家です。
坂道を上ると、2階建ての山門が見えてきます。くぐった先の石段の上、石垣で一段高くなった境内に本堂。この寺が山の斜面に建っているので、境内にはこうした起伏があります。
慈恩寺は、国指定の文化財が8件、県指定が25件にのぼる、東北でも有数の「仏像がまとまって残るお寺」です。本堂の内陣には大きな厨子(宮殿)があり、本尊の弥勒菩薩坐像をはじめ、たくさんの像がその中に収められています。
私が2024年にツアーで訪ねたとき、いちばん見てほしいと思ったのは、薬師堂の中の対比でした。洗練された造形の十二神将。そのすぐそばに座る、素朴な顔立ちの薬師如来さん。同じお堂に並んでいるのに、顔つきがまるで違います。この違いが、慈恩寺をいちばん面白くしていると思っています。
慈恩寺・十二神将立像:薬師さんを守る、洗練された12人
十二神将は、薬師如来さんを守る12人の武将です。見分けの決め手は、頭の上の十二支の動物。子、丑、寅と、それぞれの頭に動物をのせています。
慈恩寺の十二神将は、鎌倉時代(13世紀後半)の作で、国の重要文化財です。薬師堂に安置されています。像はどれも小さいのに、衣の翻り方や体のひねり方まで、ていねいに彫り分けられています。小さな像ほど、作り手の腕がそのまま出る。私はそう見ています。
辰・午・未・申の4体は、江戸時代に補われたとみられます。鎌倉の8体と江戸の4体、見分けられるかどうか。試してみてください。
仏像リンク編集部MEMO 📝




名称: 木造十二神将立像(重要文化財)
時代: 鎌倉時代(13世紀後半)。辰・午・未・申の4体は江戸時代の補作とみられる
材質: 木造。寄木造
特徴: 頭の上の十二支の動物で見分ける。小像ながら表現が豊かで、動きがある。薬師堂に安置。
慈恩寺・薬師如来坐像:素朴な顔の薬師さん
十二神将のすぐそばに座るのが、薬師三尊です。国の重要文化財で、中央が薬師如来坐像、左右に日光菩薩と月光菩薩が立ちます。
顔立ちは素朴です。十二神将が動きで守る像だとすれば、こちらは座ったまま、すべてを受けとめる像。同じ堂の中で、顔つきの違いをぜひ比べてみてください。見分けの決め手は、左手にのせた薬の壺です。
仏像リンク編集部MEMO 📝




薬師如来坐像は、像に残る銘から、延慶3年(1310)に仏師・院保(いんぽ)が作ったことが分かっています。両脇侍は鎌倉時代末期の作で、京都からやってきた仏師たちがこの地で作ったと伝わります。薬師如来さんがどんな尊格なのかは、薬師如来の解説にまとめています。
名称: 木造薬師如来及両脇侍像(重要文化財)
時代: 鎌倉時代末期。薬師如来坐像は延慶3年(1310)、銘から仏師・院保の作と分かる
像高: 薬師如来69.4cm、日光菩薩・月光菩薩 各109.1cm
材質: 薬師如来はヒノキの寄木造。日光・月光は一木から彫り出して前後に割矧ぎ。いずれも漆箔
特徴: 薬師如来は京都で作られ、両脇侍は京都から来た仏師がこの地で作ったと伝わる。薬師堂に安置。
慈恩寺・騎獅文殊菩薩と騎象普賢菩薩:獅子と象に乗る小さな像
乗っている動物で見分けます。獅子に乗るのが文殊菩薩、象に乗るのが普賢菩薩。どちらも国の重要文化財で、像高は40cm前後。本堂の宮殿に安置されています。
像高は40cm前後と小さく、遠くから眺めるより、一歩近づいて、獅子のたてがみや蓮の台の細工を探したくなる像です。
普賢菩薩のまわりに立つのは、法華経を守る女神、十羅刹女(じゅうらせつにょ)です。普賢菩薩さんについては普賢菩薩の解説もあわせてどうぞ。
仏像リンク編集部MEMO 📝




名称: 木造騎獅文殊菩薩及脇侍像、木造騎象普賢菩薩及十羅刹女像(重要文化財)
像高: 文殊菩薩坐像37.2cm、普賢菩薩坐像37.1cm。十羅刹女像は36.4〜42.0cm
材質: 木造。文殊の一群は割矧造と一木造、普賢は割矧造、十羅刹女像は一木造
特徴: 獅子に乗る文殊、象に乗る普賢。文殊の一群は善財童子が失われている。本堂の宮殿に安置。
その他の見どころ
本尊の弥勒菩薩ほか五尊(1298年、国の重要文化財)は、本堂の宮殿にまつられる秘仏です。三重塔には大日如来坐像(1263年、県指定)が安置されています。像の中から血書の法華経が見つかった聖徳太子立像(1314年ごろ、県指定)もあります。特別展で公開される像もあるので、寺の「お知らせ」を確かめてから行くと、会える像が増えます。公式サイトのお知らせには、2026年は春に「不動明王と慈恩寺修験」、秋に「常行堂 宝冠阿弥陀」の特別展が案内されていました。


山門は1634年に楽屋堂として建てられ、1736年に再建されたもので、県の指定文化財です。
お寺の歴史と伝承
寺伝では、724年に行基が開き、746年に婆羅門僧正(ばらもんそうじょう)が開基したと伝わります。確かな記録は残っていません。
はっきりしてくるのは平安時代の終わりです。12世紀初頭、この地は「寒河江荘」という摂関家の荘園になっていました。京都の摂政・関白の家が領主だったので、都の文化が直接入ってきます。鳥羽上皇の勅宣で、仁平年間(1151〜1153年)に再建されたと寺伝は伝えます。
もとは法相宗の寺でした。のちに天台宗の影響を受け、鎌倉時代には源頼朝の影響を受けた高野山の弘俊阿闍梨(こうしゅんあじゃり)が来て真言宗も入り、室町時代には時宗も入ります。1622年に天台真言両宗兼学の寺になり、いまは慈恩宗の本山です。
むかしの境内は、いまの数倍の広さがありました。最上院・宝蔵院・華蔵院の三院のほか、48の坊がありましたが、いまは17坊に減っています。2014年には「慈恩寺旧境内」が国の史跡に指定されました。
主な歴史年表
724年: 行基が開いたと寺伝に伝わる
746年: 婆羅門僧正が開基したと寺伝に伝わる
12世紀初頭: 寒河江荘が摂関家の荘園として成立
1151〜1153年(仁平年間): 鳥羽上皇の勅宣で再建されたと寺伝に伝わる
13世紀後半: 十二神将立像がつくられる
1298年: 弥勒菩薩ほか五尊
1310年: 薬師如来坐像がつくられる(銘による)
1622年: 天台真言両宗兼学の寺になる
1634年: 楽屋堂として山門が建てられる(1736年に再建)
2014年: 「慈恩寺旧境内」が国史跡に指定される
なぜ、洗練と素朴が同じお堂にいるのか
最初の問いに戻ります。十二神将は13世紀後半、薬師如来坐像は1310年。つくられた年代は近いのに、顔つきはずいぶん違います。しかも薬師如来さんは、京都で作られたと伝わります。


手がかりは、寒河江荘です。この地は京都の摂関家の荘園でした。都とのつながりが濃く、京都から仏師がやってきて、この地で像を作ったとも伝わります。さらに慈恩寺は、法相宗・天台宗・真言宗・時宗と、複数の宗派が重なってきた寺です。いろいろな時代、いろいろな祈りの像が1か所に集まっているので、顔つきにも幅が出る。そう考えると、この寺が「秘仏の宝庫」と呼ばれるのも分かります。
ここからは私の想像です。
「洗練」と「素朴」は、優劣ではなく、役目の違いなのではないでしょうか。十二神将は、動いて薬師如来さんを守る役。薬師如来さんは、座って、すべてを受けとめる役です。動く像の隣に座る像は、不思議と素朴に見えます。京都生まれの薬師さんの顔が素朴に見えるのは、隣に十二神将がいるからかもしれません。
まとめ:慈恩寺は、顔を比べる寺
慈恩寺には、小さな像がたくさんあります。十二神将、薬師三尊、獅子に乗る文殊、象に乗る普賢。どれも、1体だけ見るより、並べて見たときに顔つきの違いがはっきりします。
京都の摂関家の荘園だったこと、複数の宗派が重なってきたこと。その時間が、この小さなお堂の中に、いろいろな顔を残しました。洗練された顔と、素朴な顔。どちらが上でも下でもなく、顔を比べると、見えてくるものがあります。
では、「洗練」の手本は、そもそもどんな顔なのでしょう。木で彫った十二神将と、土でつくった十二神将。同じ12人でも、顔は同じなのでしょうか。
次に会いに行くなら
十二神将の「手本」を見るなら、新薬師寺。奈良時代の塑像の十二神将がそろうお寺です。慈恩寺の十二神将と、時代と素材の違いを見比べてみてください。
同じ山形の古仏なら、松尾山観音。茅葺きのお堂に立つ、平安時代の十一面観音です。寺ベルで訪ねた記録を載せています。
山形をもう1か所めぐるなら、立石寺(山寺)。秘仏の御開帳に合わせると、見られる像が増えます。
同じコース「東北の古仏をたどる」で、こんなところはどうでしょう
慈恩寺の拝観料金、時間、宗派、電話など
正式名称 | 瑞宝山 本山慈恩寺 |
宗派 | 慈恩宗本山(天台真言両宗慈恩寺派) |
住所・アクセス | 〒990-0511 山形県寒河江市大字慈恩寺地籍31番地/JR左沢線 羽前高松駅から徒歩約20分(無人駅)、寒河江駅から車で約12分/寒河江ICから車で約15分、山形空港から車で約20分 |
電話 | 0237-87-3993 |
拝観時間・拝観方法 | 9:00〜16:00(年中無休)。ふだん拝観できるのは本堂と薬師堂。団体は公式サイトの案内を確認。個人の予約、撮影、駐車場はお寺に確認 |
拝観料金 | 大人700円(15名以上600円)、高校生500円、小中学生200円、未就学児無料 |
拝観時間・料金は変わることがあります。お出かけ前にご確認ください。参考:本山慈恩寺公式サイト
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地域タグ:山形県の仏像

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