寺の名前が、仏像のサイズです。

徳島駅のほぼ真南、小松島に近い勝浦川沿いに、丈六寺(じょうろくじ)はあります。古びた山門の前から続く参道は、秋になると黄葉のトンネルに変わります。境内の楓の巨木も赤や黄に染まり、紅葉の穴場ともいわれる寺です。

四国徳島で最古の曹洞宗の禅寺といわれ、文化財が多く残ることから「阿波の法隆寺」「阿波の正倉院」とも呼ばれます。それでも、この寺でまず話したいのは建物の数ではありません。外陣(お堂の手前の空間)から拝める、大きな聖観音坐像です。観音さんの背丈が、そのまま寺の名札になっています。

丈六寺の参道。石碑や石塔が並ぶ石畳の奥に、屋根を二重に重ねたお堂が見える
丈六寺の参道

丈六寺・聖観音坐像:背丈が寺の名札になった観音さん

私がこの寺でいちばん見てほしいのは、この聖観音坐像です。

聖観音坐像。頭上に梁が迫る堂の中で、金色の光背を背負って坐る
聖観音坐像

坐った姿で像高3.1m。堂の梁が頭のすぐ上まで迫り、金色の光背が暗がりに浮かびます。首を後ろにそらして見上げる大きさです。

聖観音は、観音さんのいちばん基本の姿です。顔はひとつ、手は2本。立っている像が多いなかで、この像は坐っています。

仏像リンク編集部MEMO 📝

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
写真の青い鬼さんが、先に「大きいな〜!」って言ってますね。
仏像リンク
仏像リンク
言いたくなりますよね! 坐って3.1m。立ち上がれば1丈6尺、約4.85mになる大きさで、これが「丈六」です!
仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
立ったら、堂が困りそうです。
仏像リンク
仏像リンク
困ります! だから坐っている……のかも、たぶん!

制作は平安時代末期とみられています。2015〜2017年にかけて本格的な修理が行われ、これまでヒノキの寄木造とされていた作りが、実は「割矧(わりはぎ)造」だったと分かりました。像を前後に割って、内側をくりぬいてから合わせる技法です。

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
像は同じなのに、作り方の説明が変わったんですか?
仏像リンク
仏像リンク
像は同じです! 直してみて初めて、中の作りが見えたんです。

聖観音さんについて知りたい方は、聖観音菩薩の解説へどうぞ。

【仏像の種類:聖観音菩薩とは】シンプル・イズ・ベスト!変身が得意な菩薩のありのまま何事も基本は大事なのです。観音さまには千手観音や十一面観音などいろんな種類がありますが、やはりその基本となる原型の観音さまのことを知らず...
仏像カルテ<聖観音坐像>

名称: 木造聖観音坐像(重要文化財)

時代: 平安時代末期

像高: 3.1m(立ち上がれば1丈6尺=約4.85m)

材質: 木造。割矧造(従来はヒノキの寄木造とされていたが、2015〜2017年の修理で判明)

特徴: 寺名の由来になった大きさ。坐像の聖観音。金色の光背。

その他の見どころ

像の中から出てきた、もう1体:胎内仏

以前の修理のとき、聖観音坐像の中から、高さ約32cmの胎内仏(像の中に納められた小さな像)が見つかりました。いまは宝物館に納められています。

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
3mの像の中に、32cmの像……。
仏像リンク
仏像リンク
入れ子です! 外から眺めているだけでは、一生気づけません。

像は完成したあとも、修理のたびに中身を明かします。地方の像には、まだ眠っているものがありそうです。

徳雲院の血天井

境内の徳雲院という建物の回廊に、「血天井」と呼ばれる天井が残っています。堂の中ではなく、回廊の天井です。

徳雲院の回廊の天井。細長い板が奥へ並ぶ。イラストのキャラクターが目を見開いて「血天井!」とのけぞっている
徳雲院の回廊の天井
仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
イラストの彼、手を前に出してのけぞってますね。
仏像リンク
仏像リンク
見上げる前に、心の準備を! 板そのものは、ふつうの天井板に見えるんです。

話は戦国時代の末期です。土佐の長宗我部元親が阿波に攻め入り、牛岐城(富岡城)の城主・新開道善(新開遠江守忠之)となかなか決着がつきませんでした。元親は和議を申し入れ、1581年11月、この丈六寺で酒宴が開かれます。宴を終えて部屋を出た道善は、縁側に潜んでいた元親の家臣に襲われ、一行はみな討たれたと伝わります。論功行賞の名目で呼び出されたとする話もあります。

そのとき縁側に残った手形や足形の血の跡は、拭っても消えなかったといいます。後世に残そうと、その縁側の板を徳雲院の天井板に使ったのが、血天井です。

徳雲院は、細川持隆が瑠璃殿として寄進した建物を、1563年に細川真之が改築し、自身の法名にちなんで改めたものです。建物が像だけでなく、土地の記憶まで預かっている。そう思って見上げると、板の1枚1枚が違って見えてきます。

重要文化財の建物と、11月の特別公開

境内には、本堂、観音堂、三門、経蔵が重要文化財として並びます。ふだんは扉が閉まっていて、外からの見学が中心です。例年11月1日から3日間は特別公開があり、観音堂や経蔵の扉が開き、本堂・書院・庭園などが公開されます。日程と料金は寺にご確認ください。

聖観音坐像は大きいので、外陣からでも十分に拝めます。像だけでなく、像を守ってきた建物にも目を向けると、寺の歩んだ時間が見えてきます。

行き方

丈六寺と、JR牟岐線の地蔵橋駅・中田駅の位置関係
丈六寺と、JR牟岐線の地蔵橋駅・中田駅の位置関係

JR徳島駅から徳島市営バスで約30分、「丈六北」バス停から徒歩2〜3分です。鉄道なら、JR牟岐線の地蔵橋駅または中田駅から歩いて30〜40分かかります。

お寺の歴史と伝承

寺伝では、白雉元年(650年)に関東地方からたどり着いた尼僧・天真正覚尼がこの地に庵を結び、浄楽寺という尼寺として始まりました。朱鳥年間に丈六の観音像が安置され、名が丈六寺に改められたと伝わります。

いちど衰えた時期を経て、1466年、阿波・讃岐・三河の守護だった細川成之が、芸州(現在の広島県)洞雲寺の僧・金岡用兼禅師を招いて再興しました。真言宗から曹洞宗に改め、寺領200石を寄進したといわれます。用兼禅師は各地を巡るなかで亡くなり、墓はこの丈六寺にあります。

江戸時代には、徳島藩の蜂須賀家が代々この寺を庇護し、伽藍を整えました。境内には細川成之・持隆・真之の墓や、蜂須賀家の家臣の墓が多く残ります。

主な歴史年表

650年: 寺伝では、尼僧が庵を結び浄楽寺が始まったと伝わる(672年とする資料もある)

朱鳥年間: 丈六の観音像が安置され、丈六寺に改称されたと伝わる

平安時代末期: 現在の聖観音坐像がつくられたとみられる

1466年: 細川成之が金岡用兼禅師を招いて再興し、曹洞宗の寺となる

1563年: 細川真之が徳雲院を改築する

1581年11月: 丈六寺での酒宴のあと、新開道善が討たれたと伝わる

江戸時代: 徳島藩・蜂須賀家が庇護し、伽藍を整える

2015〜2017年: 聖観音坐像の本格的な修理が行われ、割矧造と分かる

なぜ、寺の名前が像の背丈なのか

観音寺や薬師寺のように、祀る尊格の名からつけた寺名は、全国にたくさんあります。丈六寺は違います。尊格ではなく、寸法が名前になっています。

寺伝では、尼僧が結んだ庵は浄楽寺という名でした。そこへ丈六の観音像が安置されて、丈六寺に改められたといいます。いまの本尊は平安時代末期の像とみられていて、寺伝の時期とは開きがあります。寺伝の丈六の観音像と、いまの像が同じものなのかどうかは、私には分かりません。

ここからは私の想像です。

寸法を名前にするのは、思い切ったことです。「あの大きい観音さんのいる寺」と呼ばれるうちに、その呼び名のほうが正式な名前になった。そんな順番だったのではないでしょうか。由緒でも、尊格でもなく、背丈。堂の前に立った人が最初に口にする言葉は、きっと大きさだからです。

像が寺をつくり、寺が像の名を名乗る。丈六寺は、観音さんのほうが先に立っている寺に見えます。

まとめ:名札を貸した観音さん

もう一度、堂の中を思い出してください。梁が頭上に迫る暗がりに、金色の光背を背負った聖観音さんが坐っています。立ち上がれば約4.85m。その背丈が寺の名前になり、像の中からは小さな像が見つかり、離れた回廊の天井には戦国の一夜が残っています。

この寺では、像が名前を貸し、建物が記憶を預かっているように見えます。

そこで1つ、問いが残ります。立った観音さんと、坐った観音さん。人はどちらの前で、足が長く止まるのでしょうか。

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
結局、丈六寺では何を見ればいいんですか?
仏像リンク
仏像リンク
まず聖観音坐像を見上げる。首が疲れたら、徳雲院の天井を見上げる。上ばかりです!

次に会いに行くなら

「立つ観音さん」の前でも足が止まるか、確かめるなら鶴林寺。兵庫の鶴林寺には、「あいたた観音」の名で知られる聖観音立像があります。同じ聖観音を、坐る姿と立つ姿で見くらべられます。

兵庫・鶴林寺の仏像|十一面観音立像と「あいたた観音」の聖観音立像に会う(拝観料・時間つき)兵庫県加古川市に、「西の法隆寺」とも呼ばれる聖徳太子ゆかりの寺があります。鶴林寺です。 ここの看板は、「あいたた観音」というあだ名の観音...

坐った観音さんどうしを並べるなら、屋島寺。香川の屋島寺には、平安時代初期の千手観音坐像があります。坐像の顔立ちと体つきを、丈六寺の観音さんと比べてみてください。

香川・屋島寺の仏像|平安の十一面千手観音坐像に会う(拝観料・時間つき)屋島は、「島」とつくのに島ではありません。 香川県高松市の東、南北に5kmほど延びる細長い台地です。江戸時代からの塩田開発や埋め立てで、...

四国の仏像の幅を見るなら、雪蹊寺。高知の雪蹊寺には、毘沙門天・吉祥天・善膩師童子の「家族」がそろう鎌倉時代の像があります。徳島の平安の像から、高知の鎌倉の像へ。

高知・雪蹊寺の仏像|湛慶の毘沙門天・吉祥天・善膩師童子に会う(薬師三尊は修復中・拝観料つき)高知市の長浜。桂浜の手前、西へ4kmほどのところに、四国八十八箇所の第33番札所、雪蹊寺(せっけいじ)があります。 四国のお寺の多くは、...

同じコース「西日本・四国・九州の古寺」で、こんなところはどうでしょう

  • 鶴林寺(兵庫)…あいたた観音と十一面観音立像
  • 屋島寺(香川)…千手観音坐像
  • 丈六寺(徳島)…聖観音坐像
  • 雪蹊寺(高知)…湛慶作の毘沙門天と家族
  • 竹林寺(高知)…秘仏の文殊菩薩と五尊
  • 観世音寺(福岡)…巨大な観音群と大黒天

見仏入門のコース一覧へ

丈六寺の拝観料金、時間、宗派、電話など

正式名称

瑞麟山慈雲院 丈六寺

宗派

曹洞宗

住所・アクセス

〒771-4263 徳島県徳島市丈六町丈領32
バス:JR徳島駅から徳島市営バス(八多・五滝・大久保行き)で約30分、「丈六北」下車、徒歩2〜3分。
電車:JR牟岐線の地蔵橋駅または中田駅から徒歩30〜40分。

電話

088-645-0334

拝観時間・拝観方法

境内は自由。聖観音坐像は本堂(外陣)で拝観できます。参拝できる時間内であれば、事前の予約は不要です(2026年11月にお寺へ電話で確認)。例年11月1日から3日間は特別公開(本堂・書院・庭園など)。
写真を撮ってよいかは、お寺の方に確かめましょう。

拝観料金

志納(任意。賽銭箱へ。2026年11月にお寺へ電話で確認)。特別公開の料金は寺にご確認ください。

拝観時間・料金は変わることがあります。2026年11月にお寺へ電話で確認した内容を載せています。お出かけ前にご確認ください。参考:るるぶ&more「丈六寺」

.

丈六寺周辺の宿・ホテル
(楽天スーパーポイントが利用できる、格安パックツアー、夜行バスやレンタカーなども豊富!)
.
(ポイント還元率が高いので、ポイントがどんどん貯まる!)

.

地図
周辺の仏像・お寺の関連記事はこちら
仏像リンク
仏像リンク
下のリンクから同じ地域の仏像記事が探せるよ!

地域タグ:徳島県の仏像

仏像ファン必携!最新情報をいち早くゲット!
仏像リンク
仏像リンク
見逃し注意!ツイッターやLINEで仏像最新情報を無料ゲット!
下記バナーをクリックしてアカウントをフォローしてみてくださいね!

・X<旧ツイッター>(ニュース・訪問記・情報全般)

・LINE(秘仏開帳情報・オフ会情報)

 

【地方仏めぐりおすすめの書籍】

仏像リンク
仏像リンク
地方仏の魅力を再発見!この3冊で仏像初心者から中上級者までを網羅。これを読んで地方仏の魅力を感じてみてください、きっと仏像探訪の楽しみ方が広がります!

見仏記 (文庫)|みうらじゅん&いとうせいこう

こんな仏像の楽しみ方あったんだ!仏像の魅力を120%引き出す!仏像の初心者~中上級者まで万人におすすめの1冊。お寺のチョイスも全国津々浦々で地方仏めぐりの本としても使える本。

新TV見仏記 

映像と共に魅せる、みうらじゅん&いとうせいこうの笑い満載掛け合いを体験せよ。めちゃくちゃ楽しい2人の掛け合い、本だけじゃなくて映像でも楽しめるなんていい時代になったなぁ〜

 

地方仏を歩く|丸山尚一 

地方仏めぐりのパイオニア丸山尚一さんの至高のシリーズ。レア本だからなかなか手に入らないかもしれないので、下記リンクから在庫を見つけたら即購入必至!

【各エリアのおすすめ仏像本】

仏像リンク
仏像リンク
ここからはよりエリアに特化したおすすめ本を紹介します!

■東北エリア

図説 みちのく古仏紀行 

東北地方仏の魅力と深淵が詰まった究極のガイド

■関東エリア

東京近郊仏像めぐり 

一冊で東京近郊の仏像が全て分かる、東京近郊仏像巡りの必須ガイドブック、結構マニアックなお寺も載ってます!

■東海エリア

東海美仏散歩 愛知・岐阜・三重 

東海地方美仏の魅力を余すことなく探索!写真と詳細データ満載の新刊で東海地方の仏像を堪能

■関西エリア

1冊でわかる滋賀の仏像 文化財鑑賞ハンドブック 

滋賀の仏像が一冊で手に入る!京都・奈良の次は滋賀へ、美の旅へと引き寄せる鑑賞ハンドブック、仏像のキホンも網羅してます

奈良仏像めぐり(たびカル) 

豊富な写真と可愛らしいデザインのちいさな旅行ガイドブック。女性にもおすすめ奈良探索のお供にぴったり!

京都仏像めぐり (たびカル) 

上で紹介したたびかるシリーズの京都版。仏友さんへのプレゼントにもおすすめ!