京都・仁和寺の仏像|国宝の阿弥陀三尊と秘仏・薬師如来坐像に会う(拝観料・時間つき)

京都の北西、嵐電の駅から歩いて約3分。仁王門の前に立つと、門の向こうに、まっすぐな参道と中門が見えます。金堂まで直線でおよそ200m。ここは皇室ゆかりの寺で、春は遅咲きの御室桜でも知られています。
仏像を目当てにするなら、足を向ける先は金堂ではなく霊宝館です。平安時代の国宝・阿弥陀三尊像は、いまここにまつられています。公開は春・夏・秋の期間限定で、2026年の秋は11月29日まで。霊宝館の中は撮影できません。像は目で見て、持ち帰るのは記憶だけになります。
この記事で会うのは、888年の創建時の本尊と考えられる阿弥陀三尊と、1103年につくられた高さ10cmほどの薬師如来坐像。寺のためにつくられた大きな像と、ひとりの親王のためにつくられた小さな像です。同じ寺に伝わる2つの「本尊」を見比べると、仁和寺の見え方が変わります。

仁和寺・阿弥陀三尊像:888年の本尊

三尊を前にして目が行くのは、金色の透かし彫りの光背です。唐草のような細い線が、中央の阿弥陀さんの背後でも、左右の脇侍の背後でも、炎のように立ち上がっています。その手前で、阿弥陀さんは目を伏せ、口元をやわらかく結んでいます。
私が好きなのは、この顔の金箔が剥げ残っているところです。金色の中に黒い肌がのぞき、ふっくらした頬がかえって生き物のように見えてきます。
仏像リンク編集部MEMO 📝




この三尊は、仁和寺が開かれた9世紀の本尊とされる像で、国宝です。つくり手の名は伝わっていません。のちの平等院の阿弥陀如来坐像(1053年、定朝作)と見比べると、阿弥陀如来像の姿が時代とともに変わっていくのが分かります。阿弥陀如来の見分け方は、阿弥陀如来の解説にまとめています。
名称: 木造阿弥陀如来坐像及両脇侍立像(国宝)
時代: 平安時代(仁和4年・888年)
像高: 阿弥陀如来より、左右の脇侍のほうが高い
安置: 霊宝館(公開は春・夏・秋の期間限定)
特徴: 中央に坐像、左右に観音菩薩・勢至菩薩の立像。透かし彫りの金色の光背。
仁和寺・薬師如来坐像:10cmに彫り込まれた世界

こちらは、ふだんは見ることのできない秘仏です。白河天皇の皇子・覚行法親王が、自分の住まいの北院の本尊としてつくらせました。仏師の円勢と長円が、1103年の4月1日から5月4日まで通い、彫り上げたと伝わります。
像の高さは10.7cm(11.8cmとする資料もあります)。手のひらにのる大きさです。その中に、体の線も衣の模様も、截金(きりかね)という金箔の細い線で表した文様も入っています。背中の光背のふちには7体の薬師如来、後ろの板の左右には日光・月光菩薩。台座には12体の神将が表されています。
仏像リンク編集部MEMO 📝


像は白檀(びゃくだん)でできています。香木の代表で、仏像に好んで使われてきた木です。円勢・長円父子の作風を伝える、ただ一つの遺品とされます。
ここからは私の見立てです。888年の阿弥陀三尊は、寺の本尊として、大勢の目に向けてつくられた像です。この薬師さんは違います。ひとりの人の手元で、毎日向き合うための像です。大きさがまるで違うのに、どちらも手を抜いていない。仁和寺には、公の祈りと私の祈りの両方が、国宝の姿で残っているのだと思います。
名称: 木造薬師如来坐像〈円勢、長円作/北院旧本尊〉(国宝)
時代: 平安時代・康和5年(1103)
像高: 10.7cm(11.8cmとする資料もあり)
材質: 白檀(檀像)
特徴: 截金の文様。光背に七仏薬師、日光・月光菩薩、台座に十二神将を表す。基本的に秘仏。
公開の機会は、いま見られる秘仏・特別公開で探せます。
その他の見どころ
吉祥天立像:とんがり帽子の天女

重要文化財の吉祥天立像(平安時代・10世紀)は、先のとがった帽子が目を引きます。唐の服をまとい、左手に宝珠を持つ姿は吉祥天の定番ですが、この帽子は珍しい形です。吉祥天さんについては吉祥天の解説をどうぞ。
増長天立像・多聞天立像:金堂を守った二天

もとは金堂の阿弥陀三尊の四方を守った四天王のうち、2体だけが残ったと伝わります。2体とも邪鬼を踏み、背に火焰の輪を負って、拳を振り上げています。頭が少し大きく、ずんぐりした体つきなのは、888年の阿弥陀三尊と同じころの古い作りだからといわれています。


文殊菩薩坐像と愛染明王坐像

文殊菩薩坐像(重要文化財・鎌倉時代)は、衣の波のような模様に、鎌倉時代に入ってきた宋風の彫刻の影響がみられます。作者は鎌倉時代半ばの院派仏師とする見解がありますが、はっきりしていません。

愛染明王坐像(重要文化財・平安時代後期)は、目が3つ、腕が6本。頭には獅子の冠をかぶっています。


宿坊に泊まる


境内には宿坊の「仁和寺御室会館」があります。泊まれば、朝の境内を歩くこともできます。
周辺は、嵐電で東へ行けば広隆寺、きぬかけの路を東へ歩けば龍安寺・金閣寺。2018年に東京国立博物館で開かれた寺宝の展覧会は、仁和寺展の記事にまとめています。
お寺の歴史と伝承
仁和寺は、886年に光孝天皇が発願し、次の宇多天皇が888年に完成させた寺です。寺の名は、そのときの元号「仁和」からつけられました。


平安時代から、住職は皇族が務める「門跡」でした。1467年の応仁の乱で建物のほとんどが焼けましたが、本尊の阿弥陀三尊は、院家の真光院に移されて難を逃れたと伝わります。
再興が始まったのは、1634年のこと。覚深法親王が、江戸から京に来ていた将軍・徳川家光に再建を申し入れたのがきっかけです。1648年に昔の姿が整いました。いまは真言宗御室派の総本山で、1994年には世界遺産に登録されています。
主な歴史年表
886年: 光孝天皇が寺の建立を発願する
888年: 宇多天皇が寺を完成させる(仁和4年)
1103年: 薬師如来坐像がつくられる
1467年: 応仁の乱で建物のほとんどが焼ける
1634年: 覚深法親王が家光に再建を申し入れる
1644年: 五重塔が建つ
1648年: 昔の姿が再現される
1994年: 世界遺産に登録される
なぜ、888年の本尊は金堂にいないのか
仁和寺の本尊は阿弥陀三尊で、金堂にまつられている。そう思って金堂へ行くと、そこにいるのは江戸時代のはじめの再建で新しくつくられた阿弥陀三尊です。888年の三尊は、いま霊宝館にいます。どうして本尊が、本尊の堂にいないのでしょうか。
理由は、応仁の乱です。寺が焼けたとき、三尊は真光院に移されて残りました。160年あまりのち、再建のときに金堂へ入ったのは新しい像で、古い像は宝物として守られていきます。


ここからは私の想像です。
再建のとき、御所から紫宸殿が移されて金堂になり、清涼殿は御影堂になりました。皇室の建物が、そのまま寺の堂になったのです。焼けてしまった寺が、皇室の家ごと引っ越してきたように見えます。仁和寺はもともと、皇族が住む寺でした。堂は建て替わっても、元の像は残る。新しい本尊と、古い本尊の両方がある今の姿は、この寺が続いてきた証しのように思えます。
まとめ:仁和寺の山の上は、霊宝館
『徒然草』に、仁和寺の法師の話があります。石清水八幡宮へ一人で参り、麓の社だけを拝んで、山の上へ登らずに帰ってしまう。「すこしのことにも、先達はあらまほしき事なり」という落ちです。
仁和寺で山の上にあたるのは、霊宝館だと私は思います。金堂や五重塔、御殿だけでも1時間はかかりますが、888年の阿弥陀三尊と、10cmの薬師さんは、その奥にいます。
焼けても、像は帰ってきました。888年の阿弥陀さんは、あの金色の光背の前で、いまも目を伏せています。ここで問いが残ります。この阿弥陀さんから160年あまりのち、定朝が彫った阿弥陀さんは、どんな顔になったのでしょうか。
次に会いに行くなら
阿弥陀さんの顔の変化を見るなら、平等院。1053年、定朝作の阿弥陀如来坐像です。仁和寺の三尊を見たあとだと、顔つきの違いがよく分かります。
仁和寺から西へ行くなら、清凉寺。清凉寺の阿弥陀三尊も、仁和寺と同じ9世紀、平安時代はじめの国宝です。2つを並べて思い出してみてください。
仏師の名が像に残る寺なら、千本釈迦堂(大報恩寺)。仁和寺の薬師さんと同じように、つくり手の名が分かる像がまつられています。本尊の釈迦如来坐像は、快慶の高弟・行快の作とされています。国宝の六観音菩薩像は、肥後定慶らの作です。
同じコース「京都の基本をおさえる」で、こんなところはどうでしょう
仁和寺の拝観料金、時間、宗派、電話など
正式名称 | 大内山 仁和寺 |
宗派 | 真言宗御室派総本山 |
住所・アクセス | 〒616-8092 京都府京都市右京区御室大内33。嵐電「御室仁和寺」駅から徒歩約3分/JR花園駅から徒歩約15分/京都駅から市バス26番で約40分、JRバスで約30分 |
電話 | 075-461-1155 |
拝観時間・拝観方法 | 3〜11月 9:00〜17:00(受付16:30まで)、12〜2月 9:00〜16:30(受付16:00まで)。霊宝館は春・夏・秋の期間限定公開。2026年の秋季名宝展は11月29日まで(月曜休館。10月12日と11月23日は開館)。撮影は、境内は個人の利用なら可。霊宝館とお堂の内部は不可、三脚は屋外のみ |
拝観料金 | 御所庭園:大人800円(15名以上720円)。霊宝館:大人500円(15名以上450円)。高校生以下は無料 |
拝観時間・料金は変わることがあります。お出かけ前にご確認ください。参考:仁和寺公式サイト 拝観・交通案内
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地域タグ:京都府の仏像

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