相模湾の潮騒が遠くに聞こえる大磯の地。国道1号線を平塚方面から進み、花水川を渡ると左手にこんもりとした木々に囲まれた一角が現れる。背後に控えるのは、お椀を伏せたような独特の山容を持つ高麗山。古くから大陸渡来の人々が住み着いたとされるこの地は、どこか異国の風を感じさせる不思議な静寂に包まれている。4月の少し肌寒い日、私は再びこの善福寺の門を潜った。かつて仲間と歩いた記憶を辿りながら、あの端正な阿弥陀の眼差しに再びまみえるために。

善福寺・木造阿弥陀如来立像:静謐な空間に際立つ、安阿弥様の凛々しき美貌

本堂へ足を踏み入れると、外の冷気とは対照的に、ストーブの柔らかな温もりが私を包み込んだ。正面のガラス越し、静かに、しかし確かな存在感を放ち立っているのが、本尊の阿弥陀如来である。

その姿は、一目で快慶の作風「安阿弥様」を色濃く継承していることがわかる。流麗な衣文の線、引き締まった口元、そして知性を感じさせる涼やかな目元。彫像というよりも、水墨画から抜け出してきたかのような絵画的な繊細さが、この像の品格を高めている。東大寺俊乗堂の阿弥陀像を彷彿とさせる若々しくハリのある造形は、見る者の背筋を自然と伸ばさせるような力に満ちている。

仏像リンク編集部MEMO 📝

仏像リンク編集部
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鎌倉時代の美意識が凝縮された、まさに「イケメン」と呼ぶにふさわしい阿弥陀さまをご紹介します!

本尊の阿弥陀如来立像は、鎌倉初期の巨匠・快慶のスタイルを忠実に踏襲した鎌倉中期の傑作です。その凛々しさは、仏像ファンのみならず、初めて訪れる方の心も掴む魅力を持っています。それでは、詳しいスペックを見ていきましょう。

仏像カルテ<阿弥陀如来>

名称: 木造阿弥陀如来立像(神奈川県指定重要文化財)

時代: 鎌倉時代(中期)

像高: 98.4cm

材質: 割矧造、寄木造

特徴: 快慶の作風「安阿弥様」を踏襲。玉眼を使用し、ふっくらとしたお顔に力強い眼差しを持つ。Y字型の衣文構成が流麗。表面の金や両手先、両足先は後補。

木造伝了源坐像:寺に息づく親鸞聖人の面影と、祖父のように優しい眼差し

本尊の傍らに静座するもう一躯の像。それが国指定重要文化財「木造伝了源坐像」だ。寺伝では親鸞聖人の自刻像とされ、像内からは遺骨も見つかっているという。一般的な親鸞像のような老僧の姿ではなく、帽子も被らず合掌するその姿は、どこか幼ささえ感じさせるほど純真だ。クリリとした瞳は、かつて私を可愛がってくれた祖父の優しい眼差しに重なる。

眉や口元のわずかな左右の非対称が、この像に「生きている人間」としての生々しさと温もりを与えている。かつて大英博物館にも貸し出されたというその霊力は、時代を超えて参拝者の心に寄り添い続けている。

仏像リンク編集部MEMO 📝

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
リアルな造形に驚くこと間違いなし!親鸞聖人の若き日の姿とも言われる貴重な肖像彫刻です。

この像の最大の特徴は、その圧倒的なリアリティにあります。額の皺や頬骨の張り方など、当時の高僧の個性をそのまま写し取ったかのような造形は、鎌倉肖像彫刻の到達点の一つと言えるでしょう。

仏像カルテ<伝了源坐像>

名称: 木造伝了源坐像(国指定重要文化財)

時代: 鎌倉時代後期〜末期

像高: 75.2cm

材質: ヒノキ材

特徴: 寄木造、玉眼。合掌する若々しい姿で、顔の造形が非常にリアル。像底は上げ底式。像内に遺骨が塗り込められている。寺伝では「親鸞聖人坐像」。

お寺の歴史と伝承

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
曽我兄弟の物語とも繋がる、ドラマチックな歴史の背景を紐解いてみましょう。

善福寺の開山である了源上人は、伊豆の伊東祐親の孫にあたり、あの曽我兄弟とは従兄弟の関係にあると伝えられています。一族の悲劇を目の当たりにし、世の無常を感じて出家した了源は、親鸞聖人の高弟「関東六老僧」の一人に数えられる名僧となりました。戦国時代の北条氏による一向宗禁制を乗り越え、今日までその法灯を守り続けてきた歴史は、まさに地域の信仰の核と言えるものです。境内にある岩山の横穴墓群(古墳)は、この地が古代から聖域であったことを今に伝えています。

主な歴史年表

1193年:曽我兄弟が父の仇を討つ(開山の縁者が関与)

1225年:了源(祐光)が出家し、天台宗高麗寺の別当職につく

1229年:国府津で親鸞聖人の弟子となり「善念房了源」の法名を賜る

1234年:親鸞聖人より自刻のご影像と聖徳太子像を授かる

1251年:了源上人、60歳で往生

1506年〜1560年:北条氏による一向宗禁制により、大磯の本院が打ち壊される

1805年:現在の本堂(阿弥陀堂)が再建される

1992年:了源坐像が国の重要文化財に指定される

本堂での拝観を終え外へ出ると、境内の枝垂れ桜が春の風に揺れていた。奥様の温かなもてなしと、阿弥陀さまの凛々しき姿、そして了源上人の慈愛に満ちた眼差し。それらが一つに溶け合い、冷えた体に確かな温もりを残してくれた。高麗山の麓、静かに時を刻むこの古刹には、今も変わらず「救い」の風が吹いている。

善福寺の拝観料金、時間、宗派、電話など

正式名称

龍頭山 華水院 善福寺(りゅうずさん かすいいん ぜんぷくじ)

宗派

浄土真宗本願寺派

住所・アクセス

〒255-0001 神奈川県中郡大磯町高麗1-7-7

JR大磯駅または平塚駅よりバス「花水」下車、徒歩3分

電話

0463-61-1193

拝観時間・拝観方法

要問い合わせ(事前連絡が望ましい)

拝観料金

志納

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