岐阜駅の北東、長良川を越えた先の丘陵地に、その寺はある。岩井山延算寺。地元の人々からは「かさ神様」の名で親しまれ、古くから皮膚病平癒の霊場として信仰を集めてきた場所だ。新緑が目に眩しいゴールデンウィーク、年に一度の御開帳に合わせて、私はこの小高い山の上にある古刹を訪ねた。

本堂へと続く道には、御開帳を知らせるのぼり旗がはためいている。車を停め、山の上にある本堂からふと見下ろすと、そこには青々とした田んぼの中をこちらへと歩いてくる参拝者たちの姿があった。近所の人々が連れ立って、当たり前のようにこの場所を目指す。その光景の穏やかさに、この寺が重ねてきた時間の厚みを感じずにはいられなかった。

延算寺・木造薬師如来立像:こけしを彷彿とさせる、あまりに純粋な祈りの形

本堂の静謐な空気の中で対面した本尊、木造薬師如来立像。その第一印象は、驚くほど「プリミティブ」であった。どんぶりのような丸みを帯びた四角い顔立ち、そしてどこか「こけし」にも似た、意味深で無垢な表情。洗練された都会の仏像とは一線を画す、野の仏のような力強さと愛らしさが共存している。

平安時代初期に遡るというこの像は、クスノキの一木から彫り出されている。一木造り特有の量感あふれる体躯は、腹部や太ももにどっしりとしたボリュームがあり、古来この地の人々を、そしてこの寺そのものを守り続けてきたという確かな存在感を放っている。これほどまでに素朴でありながら、見る者の心に深く突き刺さる造形があるだろうか。それは技術を超えた、信仰の原形のような姿であった。

仏像リンク編集部MEMO 📝

仏像リンク編集部
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年に一度、5月5日だけにお目にかかれる貴重な薬師如来さんです。その独特の造形美をじっくりとご覧ください!

延算寺の本尊である薬師如来立像は、大正3年に国指定重要文化財となった名品です。平安初期(9世紀〜10世紀)の作風を色濃く残しており、特に「翻波式衣文(ほんぱしきえもん)」と呼ばれる、大きな波と小さな波が交互に寄せるような彫り方は、この時代の木彫仏の大きな特徴です。最澄が彫り上げたという伝承も残る、歴史の深さを感じさせる一尊ですよ。

仏像カルテ<薬師如来>

名称: 木造薬師如来立像(国指定重要文化財)

時代: 平安時代初期(弘仁時代後期、9世紀、10世紀説もあり)

像高: 150cm余

材質: クス材(クスノキ)

特徴: 一木造(一木彫成)、彫眼。翻波式衣文が認められる。顔は明るくふくよかな童顔、口辺にはわずかながら紅が彩られ、青春の若々しさに溢れている。肉髻は高く大きく半球形に近い。腰をしぼり、腹や太ももにはボリューム感がある。左腕の襞が細かく刻まれているのに対し、下半身の衣はそれほど襞を刻まない。左手に薬壺を持つ(後補)。

仏像カルテ<増長天・多聞天>

名称: 木造四天王立像(増長天・多聞天)(岐阜市指定重要文化財)

時代: 平安時代(増長天:10世紀頃、多聞天:9世紀に遡る)

像高: 増長天 101.8cm、多聞天 100.6cm

材質: 増長天:桧(ヒノキ)材、多聞天:榧(カヤ)材

特徴: ともに一木造。増長天は邪鬼の上に立ち、左手に宝珠を持つ。右手持物は欠失。多聞天は邪鬼と共に一材から彫り出され、左手に宝塔、右手に三股戟を握る。両像ともに量感が豊かで力強い。

お寺の歴史と伝承

仏像リンク編集部
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空海や最澄、そして小野小町。歴史上のスターたちが登場する延算寺の物語を紐解いてみましょう。

延算寺には、「たらい薬師」というユニークな別称の由来となる伝承が残っています。805年、最澄が因幡国でクスノキから彫った3体の薬師如来のうち、1体が空を飛んでこの地へやってきたといいます。現れた仏様を迎えるための立派な堂がなく、村人が用意した新しい「たらい」の上に安置したことがその名の始まりとされています。その後、815年にこの地を訪れた空海が霊水を見つけ、寺を建立したと伝えられています。

また、平安時代の絶世の美女・小野小町にまつわるエピソードも欠かせません。皮膚病に悩んでいた彼女が延算寺に籠った際、夢のお告げに従って東にある霊水を体にすり込んだところ、たちまち完治したという伝説です。この霊水が湧き出る場所が現在の「東院」となり、今もなお多くの人々がタンクを手に、その不思議な水を求めて訪れています。

主な歴史年表

805年(延暦24年):最澄が因幡国で3体の薬師如来像を彫り上げる(伝承)。

815年(弘仁6年):空海が霊水を見つけ薬師如来を祀り、延算寺を創建したとされる(伝承)。

864年(貞観6年):定額寺となる。

昌泰年間(898年〜901年)頃:小野小町が瘡治療のため7日間こもり、東院の起源となる。

1643年(寛永20年):淳仁法印により現在の本堂が再建される。

1914年(大正3年):木造薬師如来立像が国指定重要文化財となる。

午後3時を過ぎ、法要を終えた境内は再び静寂に包まれていた。山の上から見下ろす田園風景と、本堂に安置された「意味深な」表情の薬師如来。古くから守られてきた仏像は、時として芸術的な美しさを超えて、その土地の記憶そのものであるように感じられる。小高い山を降りる頃には、私の心も霊水ですすがれたかのように、清々しくなっていた。

延算寺の拝観料金、時間、宗派、電話など

正式名称

岩井山 延算寺(いわいさん えんさんじ)

宗派

高野山真言宗(準別格本山)

住所・アクセス

〒501-3101 岐阜県岐阜市岩井2丁目1-25

JR岐阜駅より岐阜バス「岩井山かさ神」行き終点下車、徒歩10分

電話

058-242-3007

拝観時間・拝観方法

本尊御開帳:毎年5月5日 10:00〜15:00(通常時は境内散策可)

拝観料金

無料

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