日本最古の「鉄仏」を訪ねて。栃木・上石川集会所(圓満寺)薬師如来

栃木県鹿沼市、かつての通学路をゆく電車の車窓から眺めていた田園風景の中に、日本最古の「鉄」の記憶が眠っているとは思いもしなかった。夏の陽光が照りつける上石川の集会所。そこは公民館としての日常の顔と、鎌倉時代の祈りを守り続ける聖域の顔を併せ持っている。目的の場所は、圓満寺からほど近い「上石川薬師堂」。地元の人々が大切に守り抜いてきた、無骨でいて温かな鉄仏に会いに行く。
鉄造 薬師如来坐像:素朴な線に宿る、最古の鉄仏の命

「集会所」として訪れた場所は、想像していた公民館のような建物ではなくお寺の本堂のような趣であった。到着した時はまだ御開帳の準備中で、一度別の場所で時間を潰してから再度訪問することにした。再び参道へ向かうと、ちょうど法要を終えたばかりの地元の方々が集まっており、幸運にもゆっくりと対面することが叶った。

厨子の中にいらっしゃるのは、建保6年(1218)という銘を持つ、日本で最も古いとされる鉄造の仏像の一つである。一目見て、その独特の質感に圧倒された。鉄という、鋳造が極めて困難な素材ゆえだろうか。そのお顔立ちは、まるで子供の落書きのような、驚くほどシンプルで素朴な線で描かれている。眉や目、唇の隆起、そして三道の表現。洗練された美しさとは異なる、土着的で力強い生命力のようなものが、鉄の肌から滲み出していた。

火災に遭ったという記録の通り、右手の肘から先や左手先は失われ、表面の腐食も進んでいる。しかし、鉄という永久不変なものへの信頼を寄せて造られたその姿は、800年以上の時を経てもなお、揺るぎない重量感をもってそこに存在していた。50センチほどの小像ながら、無垢の鉄で造られたその重さは83キロ。その数値以上に、この土地の信仰の重みが込められているように感じられた。
仏像リンク編集部MEMO 📝


この薬師如来像は、建保6年(1218年)の銘を持つ、日本で最も古い在銘鉄仏の一つとして知られています。鉄は「永久不変」の象徴として、当時の武士たちから厚い信仰を集めました。鋳造技術としては未熟な部分もあり、耳の後ろにバリ(継ぎ目)が残っていたりしますが、その稚拙さこそが、当時の地方豪族や民衆の「どうしても仏様を造りたい」という一途なエネルギーを今に伝えているように思えます。
名称: 鉄造 薬師如来坐像(栃木県指定有形文化財)
時代: 鎌倉時代・建保6年(1218年)
像高: 50.8cm
材質: 鉄造(無垢)
特徴: 日本最古級の在銘鉄仏。重量83kg。背面銘文に「大旦那 藤原 則安」「紀 則吉」等の名がある。大工(制作者)は坂本某。火災により腐食が進み、両手先を欠損。右膝に割れあり。
お寺の歴史と伝承

圓満寺の歴史は古く、大同2年(807年)に慈覚大師円仁によって開基されたと伝えられています。山号の「醫王山」や「薬王院」という名が示す通り、古くから薬師信仰が盛んな土地柄であったことが伺えます。江戸時代までは圓満寺の管理下にありましたが、幕末の慶応年間に無住の時代が続いたことで、薬師堂は地域住民による管理へと移行しました。
現在は「上石川自治会」が管理を担っており、集会所(公民館)の中に安置されているという全国的にも珍しい形態をとっています。かつて宇都宮氏に仕えた紀氏などの地方豪族が寄進したとされるこの仏像は、時代が変わっても「地域の宝」として、人々の手によって大切に守り継がれているのです。
主な歴史年表
大同2年(807):慈覚大師円仁により圓満寺が開基されたと伝えられる(伝説)。
建保6年(1218):2月23日(彼岸上旬)、鉄造薬師如来坐像が造られる(背面の銘文による)。
慶応年間(1865-1868頃):圓満寺が無住となる。薬師堂が圓満寺から離れ、地元の上石川自治会の管理となる。
昭和37年(1962):鉄造薬師如来坐像が栃木県指定有形文化財に指定される。
第二次大戦後:圓満寺に改めて住職が入り現在に至る。
拝観を終えた後、地元の方々が振る舞ってくれた赤飯の味は格別だった。息子と一緒に頬張ったその赤飯は、今まで食べた中で一番と言えるほど美味しく、夏の日の忘れられない思い出となった。一時間という限られた御開帳の時間。その短さの中に、この土地の人々が仏様と過ごしてきた濃密な時間と、旅人を受け入れる温かなホスピタリティが凝縮されていたように思う。

圓満寺・上石川集会所(薬師堂)の拝観料金、時間、宗派、電話など
正式名称 | 上石川集会所(北犬飼薬師堂)/ 醫王山 薬王院 圓満寺(えんまんじ) |
宗派 | 天台宗 |
住所・アクセス | 〒322-0015 栃木県鹿沼市上石川165-1(圓満寺) / 栃木県鹿沼市上石川166(薬師堂) JR鹿沼駅・東武新鹿沼駅前「鳥居跡町」からバス「住山」行き乗車、下車0.4km |
電話 | 0289-76-1201(圓満寺) |
拝観時間・拝観方法 | 御開帳:毎年8月第3日曜日 11時~13時頃。通常時は秘仏。 |
拝観料金 | 志納 |
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地域タグ:栃木県の仏像

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