茨城県・徳満寺|巨大な「子育て地蔵(地蔵菩薩)」の威圧と柳田國男の記憶

利根川を眼下に見下ろす高台、かつて布川城が築かれていたというその場所に、徳満寺は静かに佇んでいる。町役場に近い住宅地を抜けると、不意に現れる城跡の気配。木々が鬱蒼と茂る山門をくぐれば、そこにはこの地に深く根ざした信仰の厚みが凝縮されている。私がこの寺を訪れたのは、11月下旬。年に一度、秘仏である「子育て地蔵」が開帳される「地蔵祭り」の日だった。祭りの準備に奔走する地元の人々の喧騒が、かえってこの寺が持つ独特の凄みを際立たせていた。
徳満寺 木造地蔵菩薩立像:静寂の中に潜む、厳格なる「パワー系」の波動
地蔵堂の扉が開き、薄暗い堂内の奥にその姿を認めたとき、思わず息を呑んだ。身丈7尺3寸、約2.2メートル。等身を遥かに超えるその巨体は、地蔵菩薩という名から連想される慈悲深さよりも、剥き出しの「畏怖」を突きつけてくる。京都の六波羅蜜寺から勧請されたという伝説を持つこの像は、運慶の子・湛慶の作とも伝えられるが、その真偽を超越した圧倒的な実在感がある。

鋭い眼光。引き締まった口元。三重県松阪市の朝田寺にある地蔵菩薩にも通じる、厳しくも力強い「パワー系」の風格だ。ただ優しいだけではない、人間の業を真っ向から見据え、叱り飛ばすような峻厳さ。その巨大な足元に跪くと、自分の内面までも見透かされているような錯覚に陥る。これほどまでに「怖い」と感じ、かつ「頼もしい」と思わせる地蔵像には、そう滅多に出会えるものではない。
仏像リンク編集部MEMO 📝

徳満寺のご本尊は、茨城県内でも屈指の大きさを誇る地蔵菩薩さまです。普段は秘仏として大切に守られていますが、11月の「地蔵まつり」の期間中だけはその力強いお姿を拝することができます。「子育て地蔵」として親しまれる一方で、その威圧感のある表情は、かつてこの地を治めた武士たちの気風を今に伝えているかのようです。地蔵堂の右側には「おびんずるさま」もいらっしゃるので、ご自身の体の悪いところを撫でて、癒やしを頂くのも忘れずに。
名称: 木造地蔵菩薩立像(利根町指定有形文化財)
時代: 不詳(元禄年間 1688-1703年に京都・六波羅蜜寺より勧請)
像高: 2m21cm(身丈7尺3寸)
材質: 木造
特徴: 等身大を大きく上回る巨像。恐ろしいほどの威圧感と厳しい表情を持ち、「パワー系地蔵」と称される風格。運慶の子・湛慶の作という説も残る。

お寺の歴史と伝承


徳満寺の歴史は、この地を治めた豊島氏の栄枯盛衰と深く結びついています。元々は門前付近にありましたが、慶長年間に布川城が廃城となった際、その城跡である現在の高台へと移されました。元禄年間には、第7世隆錢上人が地蔵堂を建立し、京都から地蔵菩薩を招いたことで、現在の信仰の形が整いました。
この地蔵さまには、子宝に恵まれなかった夫婦「与兵衛とさだ」の願いを叶え、難病の息子・権太を救ったという「子育て地蔵」の伝説が伝わっています。しかし、その慈愛の裏側には、かつての農村の厳しい現実も刻まれています。本堂に掲げられた「間引き絵馬」は、生活苦から我が子を手にかけざるを得なかった母親の悲劇を描いたものです。少年時代をここで過ごした民俗学者・柳田國男は、この凄惨な絵馬を見て深い衝撃を受け、日本の貧困を救うための学問を志したといわれています。光と影、慈悲と現実。徳満寺は、日本人が歩んできた歴史の深淵を今に伝えているのです。

主な歴史年表
・創建年代:不詳(海珠山 多聞院 徳満寺として建立)
・元亀年間(1570-1573):祐誠上人により中興される
・慶長年間(1600頃):布川城廃城に伴い、城跡(現在地)へ移転
・元禄年間(1688-1703):京都の六波羅蜜寺より地蔵菩薩を勧請。第7世隆錢上人が地蔵堂を建立し、地蔵市が始まる
・寛政8年(1796):第17代日憧により本堂(客殿)を建立
・明治時代:13歳の柳田國男が「間引き絵馬」を見て衝撃を受ける
・昭和10年(1935):弘法大師千百年御遠忌を記念し「奥の院」を建立
地蔵祭りの準備に賑わう境内を後にするとき、どこか冷やりとした感覚が背中に残った。あの巨大な地蔵菩薩の視線か、あるいは本堂に掲げられた絵馬の記憶か。かつての城跡に吹く風は、人々の願いと悲しみを等しく包み込みながら、今も利根川の向こうへと吹き抜けていく。そこにあるのは、単なる観光ではない、生々しいまでの「生」と「信仰」の交差点だった。

徳満寺の拝観料金、時間、宗派、電話など
正式名称 | 海珠山 多聞院 徳満寺(かいしゅざん たもんいん とくまんじ) |
宗派 | 真言宗豊山派 |
住所・アクセス | 〒300-1622 茨城県北相馬郡利根町布川3004 JR成田線 布佐駅より徒歩23分。駐車場あり(東側の広大な空地) |
電話 | 0297-68-2442 |
拝観時間・拝観方法 | 毎年11月24日から前後5日間くらいの期間<毎年変動するため寺院にご確認ください> |
拝観料金 | 境内自由(線香代50円、御朱印300円) |
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地域タグ:茨城県の仏像

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