栃木県佐野市。名物の佐野ラーメンを堪能した後、バスを走らせること約3分。市街地の喧騒からわずかに離れた場所に、西光院は静かに佇んでいた。赤見町。主要道から少し奥まったその地は、かつて湧釜郷と呼ばれた水豊かな土地の記憶を留めている。

境内に入ると、住職が朗らかな笑顔で迎えてくれた。その丁寧な立ち振る舞いに、こちらの背筋も自然と伸びる。我々全員にお茶を用意していただき、さらに温かさとともに心が引き締まる。ここは11種類もの桜が植えられた花の寺でもあるが、青々とした緑が堂宇を包み、我々の訪問を歓迎してくれていた。

西光院・木造大日如来坐像:地方仏師のノミ跡が語る平安の息吹

本堂の右側、曼荼羅が掲げられた中心に、その大日如来は座していた。木造大日如来坐像。11世紀の中頃、平安時代の作とされるその姿を前にすると、まずその「顔」に視線が止まる。洗練された都の作風とは異なる、非常に個性的で野性味を帯びた表情。

眉から鼻へのライン、そしてどこか挑戦的とも取れる強い眼差し。それは、この地の平穏を願った当時の地方仏師が、自身の祈りをノミの一振りに込めた証だろう。頭部で結われた宝髻(ほうけい)や、両肩に垂れる髪の毛の処理には、都の形式に囚われない独自の感性が現れている。智拳印を結んだ手元を見つめると、長い年月を経てなお、その指先には力強い意志が宿っているように感じられた。

木造大日如来坐像|地方仏師の手による個性的で力強い相貌
木造大日如来坐像|地方仏師の手による個性的で力強い相貌

仏像リンク編集部MEMO 📝

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
栃木県内でも珍しい、平安時代中期まで遡る貴重な大日如来さんです!

西光院の木造大日如来坐像は、県指定の有形文化財となっており、その創建時代を今に伝える極めて重要な遺物です。檜材を用いた一木造りで、背面から内刳りが施されています。髪の紐の結び方や肩への垂らし方など、都の様式とは異なる地方仏師ならではの独創的な表現が見どころです。拝観には事前連絡が必要ですので、マナーを守ってお参りしましょう。

木造大日如来坐像|智拳印を結び静寂の中で座す全身の威容
木造大日如来坐像|智拳印を結び静寂の中で座す全身の威容
仏像カルテ<大日如来>

名称: 木造大日如来坐像(県指定有形文化財)

時代: 11世紀の中頃(平安時代)

像高: 不明

材質: 檜材

特徴: 頭体部から上膊部を含んだ一木造り。背面を像底部から内刳り。智拳印を結ぶ金剛界大日如来。頭髪の処理やノミの使い方に地方仏師の特徴が顕著。一部分を後補により補修・復元。

木造如来像|深く刻まれた衣文の精緻な彫刻表現
木造如来像|深く刻まれた衣文にわずかに見えるノミ跡の表現が見える

本堂に満ちる阿弥陀如来坐像と流麗な如来の姿

本堂の中央には、穏やかな慈悲を湛えた阿弥陀如来坐像が祀られている。その姿は、金色の光背と蓮華の荘厳に守られ、空間を浄土へと変えているようだった。また、住職の奥様のお話によれば、あと2週間早ければ見事なしだれ桜が咲き誇っていたという。その情景を、今の静かな堂内の空気と重ね合わせ、心の中で再現してみた。

阿弥陀如来坐像|蓮華に座し金色の光背を背負う本堂の主尊
阿弥陀如来坐像|蓮華に座し金色の光背を背負う本堂の主尊

仏像リンク編集部MEMO 📝

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
阿弥陀如来さんを中心に、周囲を固める諸尊の対比も西光院の拝観の楽しみの一つです。

本堂内には阿弥陀如来坐像が安置され、中心的な役割を果たしています。また、地蔵堂の銅造地蔵菩薩座像(市指定有形文化財)は、お盆の時期に御開帳されるとのこと。その他にも1732年に太田甚左衛門藤原秀次によって制作された銅鐘など、江戸時代の優れた金属工芸も残されています。参拝の際は、境内に広がる11種類もの桜の木々もぜひ眺めてみてください。

仏像カルテ<阿弥陀如来>

名称: 阿弥陀如来(不明)

時代: 不明

像高: 不明

材質: 不明

特徴: 本堂の中央に祀られている。

お寺の歴史と伝承

仏像リンク編集部
仏像リンク編集部
平安時代、1015年に小坂上人によって開かれた、佐野でも指折りの古刹なんですよ。

西光院の歴史は、今から千年以上前の長和4年(1015年)7月に遡ります。小坂上人によって創建された当時は、弁竜山浄楽寺聖天房西湖光院と号し、湧釜郷(現在の出流原弁天池付近)にその居を構えていました。その後、赤見村寺久保から現在の地へと移り、阿弥陀山円性坊浄楽寺西光院と名を改められました。

現在残る平安時代の大日如来像は、まさにその創建当時の熱烈な信仰を物語る生き証人と言えるでしょう。江戸時代には鋳物師・太田甚左衛門による銅鐘が寄進されるなど、時代ごとの文化を積み重ねてきました。現在は佐野七福神の毘沙門天を祀る寺としても、多くの人々に親しまれています。

主な歴史年表

1015年(長和4年):小坂上人により、湧釜郷(現在の出流原弁天池付近)に創建される。

11世紀中頃:木造大日如来坐像が制作される。

1732年(享保17年):太田甚左衛門藤原秀次により、銅鐘が制作される。

1991年(平成3年):2月19日、木造大日如来坐像が県の有形文化財に指定される。

住職とのお話の中で、「宇都宮出身なので何度でも訪ねたい」という思いを伝えると、最後には「またこちらの方に来ることがあればぜひお立ち寄りください」と温かな言葉をいただいた。

帰り際、しだれ桜やウコン桜が芽吹く境内の余韻に浸る。今は緑深き季節だが、黄金色に輝くウコン桜や、純白に輝く仁和寺譲りの桜が咲き誇る春の情景を、次回の再訪への願いと共に強く心に刻んだ。佐野の地で、平安の祈りと現代の温もりが交差する、確かなひとときだった。

木造大日如来坐像|天冠台と独自に結われた宝髻の造形
木造大日如来坐像|独自に結われた宝髻の造形

西光院の拝観料金、時間、宗派、電話など

正式名称

阿弥陀山円性坊浄楽寺西光院(あみださんえんしょうぼうじょうらくじさいこういん)

宗派

真言宗豊山派

住所・アクセス

〒327-0323 栃木県佐野市赤見町1148

JR両毛線佐野駅から車で25分、東北自動車道佐野ICから車で40分。

電話

0283-25-0725

拝観時間・拝観方法

事前連絡が必要。お盆の時期には地蔵菩薩像の御開帳あり。

拝観料金

志納