埼玉県行田市・天洲寺の秘仏「木造聖徳太子立像」日本最古の孝養像

利根川を越えれば群馬県という、埼玉県北端の地、行田。秩父鉄道の武州荒木駅に降り立つと、そこにはどこか懐かしく、春の空気が流れていた。都心よりも心持ち冷たく感じる風の中、西へ歩を進めると、聖徳山天洲寺の境内が見えてくる。毎年2月22日、聖徳太子の命日にのみ開かれる「太子会」の日。参道には屋台が並び、甘く香ばしい匂いが漂う中、私は4度目となる年に一度の邂逅を求めて山門をくぐった。

天洲寺・木造聖徳太子立像:少年の面影に宿る、峻烈なまでの意志
本堂の南側、朱塗りの太子堂(御霊殿)へと向かう。法要を待つ人々で賑わう堂内、少し高い位置に安置されたその像を仰ぎ見た瞬間、その峻烈なまでの気迫に言葉を失う。黒ずんだ体から放たれるのは、16歳の少年とは思えぬほどの威厳である。父・用明天皇の病気平癒を祈る「孝養太子」の姿。腹の前で香炉を捧げ持つその手元、そして何より、口を横に結び、鋭く光る玉眼の眼差し。そこには、純粋な祈りを超えた、冷徹なまでの決意が刻まれているように見えた。

かつて鎌倉の地で造られたというこの像は、そのプロポーションもまた独特だ。胸の厚みは抑えられているが、腰から下にかけての量感は豊かで、すらりと伸びた足は現代的なスマートささえ感じさせる。慶派仏師・慶禅の手による力強い彫致は、静止した木の中に激しい感情のうねりを封じ込めている。厳しい表情の奥に秘められた、若き聖徳太子の孤独と強さ。堂の隣で舞われる神楽の音を聞きながら、私は春の訪れとともに、その気高い魂の余韻に浸っていた。

仏像リンク編集部MEMO 📝

天洲寺の聖徳太子像は、数ある太子像の中でも極めて重要な存在です。寛元5年(1247年)という明確な制作年が判明しており、この姿(孝養像)としては日本最古の基準作例とされています。運慶の流れを汲む慶派の写実性と、宋風の影響が融合したその姿は、一見の価値ありです!
名称: 木造聖徳太子立像(国指定重要文化財)
時代: 鎌倉時代中期(寛元5年・1247年)
像高: 約140cm
材質: ヒノキ(檜材)
特徴: 寄木造、玉眼。仏師は法橋慶禅。制作年・制作者・願主が明確な日本最古の孝養太子像。少年の姿ながら厳しく力強い表情を持ち、プロポーションが良い。像内の銘文により、鎌倉幕府の重臣・毛利季光(西阿)が源実朝らの追善のために鎌倉で造らせたことが判明している。
お寺の歴史と伝承


天洲寺は慶長12年(1607年)、この地を領した武将・荒木長善の遺志を継いだ八左衛門によって創建されました。しかし、本尊以上に有名な聖徳太子像は、寺の歴史よりも遥かに古い歴史を持っています。この像の願主である「西阿(毛利季光)」は、鎌倉幕府の重要人物・大江広元の四男であり、熱心な念仏者でした。彼は暗殺された3代将軍・源実朝や、北条泰時らの菩提を弔うため、鎌倉の地でこの像を造らせたと伝わっています。なぜ鎌倉からこの行田の地へ移されたのか、その正確な経緯は今も謎に包まれていますが、像を造ったわずか5ヶ月後に西阿自身も戦に敗れ自害するという、悲劇的な因縁が歴史の深みを感じさせます。

主な歴史年表
622年2月22日: 聖徳太子が亡くなられた忌日(太子会)。
1186年: 源頼政の孫・源有綱が死没(像の銘文に関係)。
1219年: 3代将軍・源実朝が暗殺される。
1242年: 鎌倉幕府3代執権・北条泰時が他界。
1247年(寛元5年): 毛利季光(西阿)が仏師・慶禅に命じ、鎌倉にて聖徳太子像を造立。
1247年(像造立の5ヶ月後): 宝治合戦が起こり、毛利季光が自死。
1607年(慶長12年): 荒木氏により天洲寺が創建される。
1671年(寛文11年): 忍藩主・阿部忠秋により再建。
昭和25年8月29日: 木造聖徳太子立像が国指定重要文化財となる。
拝観を終えて外へ出ると、記念の赤いお札をいただいた。参道の帰り道、境内に落ちた八朔を投げ合って遊ぶ子供たちの姿があった。その無邪気な笑い声を、太子堂の奥に座す厳格な表情の太子像は、かつての自身の姿を重ねるように、厳しくも優しく見守っているのかもしれない。そんな温かな春の余韻とともに、私は駅へと続く道を歩き出した。

天洲寺の拝観料金、時間、宗派、電話など
正式名称 | 聖徳山 天洲寺(しょうとくさん てんしゅうじ) |
宗派 | 曹洞宗 |
住所・アクセス | 〒361-0011 埼玉県行田市大字荒木1614 秩父鉄道「武州荒木駅」より徒歩約3〜5分 |
電話 | 048-557-1002 |
拝観時間・拝観方法 | 【聖徳太子像】毎年2月22日(太子会)のみ御開帳(10時〜16時)。法要中(11時・14時)は間近での拝観不可。 |
拝観料金 | 志納 |
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地域タグ:埼玉県の仏像

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