三重県四日市市・上品寺|平安の面影を宿す10世紀の木造釈迦如来坐像

鈴鹿川と内部川が流れる四日市の南部、内部(うつべ)地区。市街地の喧騒を離れ、みかん畑が広がる丘陵地の斜面を背にしたこの地に、開徳山 上品寺は静かに佇んでいる。「貝家(かいげ)」という不思議な地名は、かつてのお寺の門階の下、つまり「階下」に由来するという。古の地形の記憶を今に伝える高台へと、10世紀の木彫仏に会うために足を運んだ。
上品寺・木造釈迦如来坐像:どんぐりのような生命感と、鋭い密教の眼差し
住職に案内され、境内の一角にある耐火造りの釈迦堂へと向かう。扉が開くと、そこは薄暗い収蔵庫のような静寂に包まれていた。中央に安置されているのは、10世紀にまで遡るという木造釈迦如来坐像だ。第一印象は、何とも言えない愛らしさ。どんぐりのように丸みを帯びた頭部、重心の低いどっしりとした体躯。その造形には、平安前期から中期へと移ろう時代特有の、力強い生命感が凝縮されている。

しかし、歩み寄ってその相好を凝視すると、印象は一変する。長く引かれた眉の下で、目尻の切れ上がった鋭い眼光がこちらを射抜く。口元は固く引き結ばれ、厳格な威厳を漂わせているのだ。女性的な柔らかさと男性的な力強さ。その双方が矛盾なく同居するその姿は、平安の密教的な緊張感を今もなおその身に宿している。クスノキの一材から彫り出されたその内側には、自然の洞(うろ)がそのまま残されているという。霊木の中に宿る仏を、あるがままに掘り出したかのようなその存在感に息を呑んだ。

仏像リンク編集部MEMO 📝

こちらの釈迦如来像は、かつてこの地にあった天台宗の古刹「成保寺」のご本尊だったと伝わっています。一木造りで、驚くべきことに体内の空洞は人工的な内刳りではなく、もともと木にあった「洞(うろ)」をそのまま活かしている可能性があるそうです。これは、木の中に仏が宿ると信じられた「霊木信仰」の現れかもしれません。丸みを帯びたフォルムと、鋭い表情のギャップをぜひ間近で体感してみてください。
名称: 木造釈迦如来坐像(四日市市指定有形文化財)
時代: 平安時代中期(10世紀〜11世紀初頭)
像高: 98.5cm(資料により99cm)
材質: 木造(クスノキ材)、一木造
特徴: 漆箔、彫眼。頭頂から地付まで一材で彫出。内部は頭部以外の大半に自然の洞(うろ)が及び、自然の内刳りとなっている。肉髻は低く帽子のような形状。髪際線は目深で額が狭い。眉は長く、目は釣り上がり、口元を引き締めた厳しい顔つき。左肩を覆う偏袒右肩で、衣文は重厚な彫り口。腹前で定印を結び、右足を外に組んで結跏趺坐する。両手先、膝前材、背板、頭頂・後頭部補材などは江戸時代の後補。制作当初の両脚は別途保存されている。

お寺の歴史と伝承


上品寺の歴史は、平安時代初期の嘉祥2年(849年)にまで遡ります。土師宿禰岩次という人物が、行基作と伝わる釈迦如来像を本尊として、天台宗の「成保寺(せいほうじ)」を建立したのが始まりとされています。現在の「上品寺」という名は、延宝7年(1679年)に改称されたもので、それ以前には浄土真宗へと改宗し、江戸時代初期に現在の場所へと移転してきました。成保寺時代の本尊であった釈迦如来像は、元和7年(1622年)にこの上品寺へと移され、大切に守り続けられてきたのです。
主な歴史年表
849年(嘉祥2年):土師宿禰岩次が天台宗「成保寺」を建立(開山は澄順法師)。
10世紀頃:現在の市指定文化財「釈迦如来坐像」が制作される。
1461年(寛正2年):天台宗から浄土真宗高田派に改宗する。
1615年(慶長20年):現在地に移転する。
1622年(元和7年):成保寺の本尊であった釈迦如来坐像が当寺に安置される。
1679年(延宝7年):「上品寺」と改名される。
2002年(平成14年):釈迦如来坐像が四日市市の有形文化財に指定される。
かつては多くの参拝客で賑わったというこの場所も、今は静かな時間が流れている。住職の「最近は人が集まることも少なくなった」という寂しげな言葉が耳に残る。しかし、収蔵庫の暗がりに鎮座する釈迦如来の眼差しは、1000年前と変わらず鋭く、そして慈悲深く、訪れる者を静かに見守っていた。地域の信仰が形を変えても、この木の中に宿る仏の生命感は、決して色褪せることはないのだろう。
上品寺の拝観料金、時間、宗派、電話など
正式名称 | 開徳山 上品寺(かいとくざん じょうぼんじ) |
宗派 | 浄土真宗高田派 |
住所・アクセス | 〒510-0955 三重県四日市市貝家町47 あすなろう鉄道内部線「内部駅」より徒歩約25分。または「笹川テニス場」行きバス「波木南台二丁目」下車徒歩10分。 |
電話 | 059-321-0742 |
拝観時間・拝観方法 | 事前にお電話にて要確認 |
拝観料金 | 志納 |
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