【仏像の種類:薬師如来とは】薬壺を持ったお医者様!現在のご利益を与えお守りしてくれる


 

「お薬師さん」で親しまれる薬師如来の「薬師」という文字をみるだけで、なんだか病気に効きそうな仏さまという気がしませんか? 薬師如来は医王如来(いおうにょらい)、大医王仏(だいいおうぶつ)とも呼ばれる、如来の中でもちょっと特別な仏さまなんです。他の如来と違って、お医者さんのように病気を治してくださり、この世の現実的な願い事をかなえてくださる頼りになる仏さま、それが薬師如来です。

薬師如来のやくわり

薬師如来の正式名は、薬師瑠璃光如来(やくしるりこうにょらい)。

薬師如来が住んでいる住所は西の方角にあるとされる極楽浄土の世界の阿弥陀如来に対して、の方角にある瑠璃光浄土(るりこうじょうど)に住んでいます。

 

 

お薬師さんはまだ菩薩としての修行中に、自分が仏さまになったらやりとげようと12の誓いをたてました。病気を治す、衣食住を満たす、悩みを解決する、地獄へ落ちないように導くなどです。

 

すると、病気を治すうえに寿命ものびて、精神的な苦痛までも取り除く仏さまなんだと評判になって信仰が広まり、多くの仏像が作られました。ポイントは、薬師如来は阿弥陀如来のように死んだ後の安らぎを与えてくださるのではなく、生きている間の現実の世界で安らぎを与えてくださるというところ。「今助けてくださる」仏さまだったのです。

薬師如来は、働き者の如来です。人々を救うためなら七つの姿に変身することだって可能です。それらを「七仏薬師」と呼びます。そして、それなら姿の違った薬師如来を7体同時に拝めばいいんじゃないか、というのが「七仏薬師法」。8-9世紀に良源というお坊さんが行った藤原摂関家のための安産祈願から注目を浴び、延命・息災・安産などを祈る方法として有名になりました。薬師如来の光背に六体、もしくは七体の小さな仏さまが見られることがありますが、これは七仏薬師の薬師如来とその化身仏(けしんぶつ)と言われる姿を変えた仏さまなんです。

 

さて、薬師如来はチームを組んで人々を導きます。まずは「薬師三尊」として両脇に日光菩薩、月光菩薩が控えます。お薬師さんがお医者様だとすると日光菩薩・月光菩薩はお医者様のサポートをする看護婦さんたちのようです。

 

 

さらに三尊の周りには「天部」に属し、薬師如来とそれを信じる人々を守る十二神将(じゅうにしんしょう)が1体につき7000人の眷属(けんぞく)と呼ばれる部下を従えて12の方角に分かれて護衛します。そして東西南北には四隅を守る持国天、広目天、増長天、多聞天という「四天王」がそれぞれにらみをきかせるという完璧な警備体制です。

 

これらのちょっとコワモテの十二神将と四天王が「十六善神」と呼ばれる頼れる武神たち。以上が薬師如来チームのメンバーです。なお、四天王は薬師如来のチームにだけ属しているわけではなく、仏の世界全体を守る役目を負っています。

成り立ち

薬師如来は他の仏さまと同様インドで生まれた仏さま。

サンスクリット語の名前は「バーイシャジヤグル」と言います。「バーイシャジヤ」は「医療」、「グル」は「指導者」の意味です。それが伝来される途中に中国語で「薬師」と訳されたわけです。

 

紀元後6世紀に仏教が日本に伝来した時に、薬師如来の考え方も一緒に入ってきています。でも、実はそれ以前の起源やどのように伝来・発達していったのかということはよく分かっていません。インドのアジャンター壁画の影響がある法隆寺金堂壁画に薬師如来が登場すること、薬師如来の原型と考えられている薬王菩薩がインドの大乗仏教の経典に現れているということで、インドではすでに薬師信仰があったと考えられています。

出典:法隆寺金堂10号壁薬師浄土図(焼損前)

 

また、薬を持ち、延命する力を持つインドのバラモン教のバルナ神が薬師如来の原型ではないかとする専門家もいます。

そして、インドからはるばる日本にやってきた薬師如来はまさに日本の救世主となります。というのも、朝鮮や中国などとの文化交流が盛んになるにつれて、6世紀頃から日本に多くの伝染病が侵入し蔓延したのです。その上嵐や干ばつ、地震などの天災に襲われた当時の日本の人々の生活はかなり悲惨な状況でした。

 

そこで741年に聖武天皇が日本の各国に「金光明四天王護国之寺」と「法華滅罪之寺」つまり国分寺、国分尼寺を建立することを命令しました。大和国の東大寺・法華寺をそれぞれの総本山として、自然災害・疫病・争いなどで乱れた世の中を全国的に仏教によって安定させるのが目的です。その時にほとんどの寺でご本尊として起用されたのが、薬師如来。

◯◯国分寺=本尊の多くは薬師如来

当時は病気に掛かるのは悪霊のせいにされ、お祈り以外に治療方法はありませんでした。とにかく都合の悪い現世の問題と病気を一挙に解決してくださる薬師如来は頼もしい味方。人々は必死で薬師如来にすがりました。このように聖武天皇、つまり朝廷が率先して薬師如来信仰をプロデュースして全国に国分寺・国分尼寺を作ったことが、薬師如来の全国普及へとつながり、薬師如来が一躍人気者になったわけです。

見た目の特徴・見分け方

 

ほとんどの薬師如来は見分けるのが簡単です。病気の回復や延命を願って作られたものが圧倒的に多い薬師如来像は、坐像・立像ともに右手は「怖がらなくていいんだよ」という意味を表わす施無畏印(せむいいん)を示し、左手に薬壺(やっこ)と呼ばれる入れ物を持っています。如来の中で薬壺のような物持(じもつ)と呼ばれるアイテムを持っているのは薬師如来だけ。そのため他の仏さまとの区別がしやすいのです。

 

ただ、平安時代以前の薬師像には何も持たない像も多く、区別出来ない場合もあります。薬壺の中身が気になりますか? 苦しみを取り除き、薬となる霊薬が入っているらしいですよ。

 

薬師如来の勝手なイメージです (出典:ドラゴンボール)

薬師如来の真言

薬師如来の真言は「オンコロコロ センダリマトウギ ソワカ」です。

「おん」は仏さまに“帰依します”、「ころころ」は“早く”という意味。「そわか」は“成就”を意味します。

つまり人々の願いを素早く叶えてくれて、病気だけでなく、現世に大きなご利益がもらえるよ!という薬師如来の役割をつたえるという意味があります。

日本各地の薬師如来いろいろ

新薬師寺(奈良県)

747年に聖武天皇の病気平癒を祈って光明皇后によって創建された新薬師寺。

本堂の丸い須弥壇(しゅみだん)と呼ばれる、仏像のためのステージに本尊の薬師如来坐像が安置されています。そのお姿は穏やかで力強く、切れ長の大きな目が特徴的です。右手は施無畏印を示して左手に薬壺を持つという典型的スタイル。七仏薬師を示す化身仏が光背の花の上に六体あります。

注目ポイントは、天平時代の傑作と言われる十二神将(うち十一体が国宝)が須弥壇の上で如来を囲んで円形に配置されていること。通常十二神将は薬師如来の左右に六躯ずつ、もしくは前方横一列に並べられることが多い中、この新薬師寺のレイアウトは珍しい例です。

 

佐渡国分寺(新潟県)

新潟件佐渡市国分寺にある、佐渡島最古のお寺です。

741年の聖武天皇の詔によって建てられた国分寺の一つで、現在の建物は1674年までに再建されたものです。国指定重要文化財の木造のご本尊薬師如来坐像は平安時代前期の作とされ、現在は収蔵庫に安置されています。

右手は施無畏印を示して、左手には薬壺。左足の甲を右太ももの上にする結跏趺坐(けっかふざ)という、片足だけちょっとヨガのようなポーズをしています。

どっしりとした落ち着きのある仏さまで、衲衣(のうえ)の表現などに奈良時代の中心地奈良地方の伝統の影響が見られ、仏教美術が地方にどのように伝わっていくのかを知る上で貴重な作例だと言われています。

大善寺/ぶどう薬師(山梨県)

山梨県甲州市勝沼町にある大善寺。平安初期の作と考えられる国指定重要文化財の薬師三尊像が国宝の薬師堂の厨子の中に安置されています。

五年に一度だけ開帳される秘仏で、日光・月光菩薩と共にいらっしゃる薬師如来の左手の上には、薬壺の代わりになんとぶどうが・・・!

寺伝によると、718年に僧の行基が勝沼で修行をした最終日の夢にぶどうを持った薬師如来が現れ、喜んだ行基が夢の中に現れたお姿と同じ薬師如来像を作ったのだそうです。それがこの大善寺の始まりで、以来、行基は薬園をつくって民衆を救い、薬としてのぶどうの作り方を村人に教えました。これが甲州ぶどうの始まりとなったそうです。

 

勝常寺(福島県)

会津五薬師と称される五寺の中央薬師、勝常寺(しょうじょうじ)は慧日寺(えにちじ)、上宇内薬師堂、野寺薬師、北山薬師の東西南北薬師と共に平安時代初期に徳一という学僧によって開かれたと伝わっています。

その昔、空海が磐梯山の魔物によって苦しめられていた住民のために、無病息災・五穀豊穣を祈って五体の薬師如来を作りました。それを徳一が会津各地に五つのお堂を建立して納めたのだそうです。勝常寺の本尊薬師如来坐像と日光・月光菩薩立像は三尊とも寺の創建当時平安初期の造立と考えられています。

さて、ここの薬師如来には一点普通の如来と違う点があります。それは、眉間の白毫(びゃくごう)。白く長い毛で、右回りに丸められた毛が通常仏像の額に丸く表現されているはずなのに、それがないのがこちらの勝常寺薬師如来の特徴です。堂々とした量感と、大きめの螺髪、厳しい表情は平安初期彫刻の特徴で、三尊ともに東北地方の仏像としては初めて国宝に指定されました。

もっと薬師如来のことを調べたいときの参考書籍

 

  

 

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